平昌五輪が閉幕──冬の帝国覇権争い、漢字文化圏の勃興、小平選手の行動
新しい種目とアメリカ文化
以上のような伝統的な種目に加えて、近年はスノーボードやフリースタイル・スキーといった新しい種目も登場した。 これに強いのはアメリカであり、次いでカナダ、日本などである。これらの国々は、ヨーロッパの伝統文化を受け継ぎながらも、そこから離れた新しい文化を志向する傾向があり、コカコーラやハンバーガーといったアメリカ文化に親和的である。また日本人は身体が小さいことからも、フィギュアスケートと同様、こういった曲芸的な美技を競う種目には比較的強いようだ。 またバンクーバー・オリンピックでマナーが問題となった国母和宏選手、その指導を受けた今回の銀メダリスト平野歩夢選手など、スノーボードの選手は、これまでのスポーツ選手とは少し異なったカウンター・カルチャー(対抗文化)にあることを感じさせる。とはいえコメントの内容は決して悪くない。スノーボードは、路上のスケートボード、海のサーフボードにつながり、ストリート・ダンスや、ラップ・ミュージックなどと同様、路上から湧き上がったような感覚なのだ。 雪と氷の世界にも、新しいグローバリズムの波が押し寄せている。
ヨーロッパの周縁
つまり冬のオリンピックで活躍するのは、ヨーロッパの「周縁」である。 そもそもヨーロッパ文化とは、ギリシャ思想とキリスト教、すなわち科学的合理主義と宗教的神秘主義を二大潮流とする地中海周辺の文明が北に上がっていくことによって形成されたものだ。地中海を起点とすれば、北欧は明らかに周縁であり、また宗教的異端も山地に逃れる傾向にあった。つまり「北方と山地」は、ギリシャ・ローマを起点とする都市文明の波から遠く離れた地域であり、この地域の文学、音楽、美術などには、古ゲルマンやケルト文化の影響も残っている。 また、ロシアも東欧も、地中海から西欧へとつながる都市文明の周縁であり、ローマン・カトリックに対するギリシャ・オーソドックス(ギリシャ正教)系の宗教圏である。そしてアメリカ、カナダ、日本は、地理的にはヨーロッパから遠く離れているが、文化的にはその周縁といっていい。 そしてそれ以外の地域の国々は、風土的に、あるいは経済的に、ほとんど参加できないほど不利な状況に置かれている。視点を変えれば、冬のオリンピックに強い国は、必ずしも現在の国力が強いとはいえないにしても、比較的早く近代化した国であるようだ。かつて植民地だった国も、ヨーロッパ系を主体に独立したところである。 つまり歴史を巨視的にとらえれば、古代・中世のメジャーな文明は地中海を中心とする地域(アフリカ北岸と中近東を含む)によって形成され、近現代文明は西欧とその周縁地域(ある意味でイギリスも周縁であり、アメリカのような旧植民地、日本のような文化的周縁も含めて)によって形成されたのであり、中国やインドやブラジルといった国々を代表とするアジア、アフリカ、ラテンアメリカの多くの国々は、新興勢力として位置づけられる。 冬のオリンピックは、夏のオリンピックのような普遍性のない、風土的に偏ったスポーツの祭典である。これまで見てきたように、国と種目の組み合わせにも偏りがある。しかしだからこそ、そこに「もう一つの地政学」が顔を出すのだ。