犬を模範として生きよ…「あまりに異端すぎた哲学者」が「とんでもなく偉い人」に言い放った「衝撃の発言」の内容
クローン人間はNG? 私の命、売れますか? あなたは飼い犬より自由? 価値観が移り変わる激動の時代だからこそ、いま、私たちの「当たり前」を根本から問い直すことが求められています。 【写真】「犬のように生きよ!」…異端の哲学者が叫んだ「あらゆる権威を壊す面白さ」 法哲学者・住吉雅美さんが、常識を揺さぶる「答えのない問い」について、ユーモアを交えながら考えます。 ※本記事は住吉雅美『あぶない法哲学』(講談社現代新書)から抜粋・編集したものです。
権威と闘う哲学者・ディオゲネスとの出会い
勉強したくない。働きたくない。結婚したくない。子育てしたくない。だけど楽しく暮らしたい。 物心ついた時からそう思っていた私は、いま思えば身の程知らずもいいとこだが、本当は女優になりたかった。「太陽にほえろ!」の山さん(七曲署の山村精一刑事)が大好きだったので、死体役でもいいから出演して絡んでほしかったのである。 しかし、新宿に「矢追町」という町が実在すると思い込んでいたほど田舎者だった私が、いきなり芸能の道を目指したところで食べていけるわけがない。そこで「法学部を出るとつぶしがきく」という常套句に乗って、大嫌いな法律を学ぶ学部にとりあえず入っておこうと思ったのだ。 どうせ法学部というのは法律や判例をつめ込むばっかりだろうと思っていたら、そんな中に「法哲学」という初見初耳の科目を発見し、興味を持った。特に「哲学」という語にビビッと反応した。というのも、私はもともと哲学や思想の本を読むのが好きで、高校時代にデカルト、カント、マルクスなどを読みかじっていたからだ。 哲学者には面白い人物がたくさんいるが、なかでも運命の出会いはディオゲネスだった。紀元前4世紀のギリシア・アテナイで活躍したキュニコス派(犬儒派)の代表的人物である。 犬儒派とは、犬を模範として生きよという哲学の学派だ。なぜ犬が偉いかというと、権力者に向かって吠え、要人に嚙みつき、自然に忠実だからという。ディオゲネス自身もズダ袋と杖を携え、樽の中で寝泊まりするという自足の生活をしていた。 一番気に入ったのが、樽の中で日向ぼっこをしていたところをアレクサンドロス大王に覗き込まれた時に、「オレの日光浴の邪魔をするな」と言い放ったことである。アレクサンドロス大王といえば当時のマケドニア王国を支配していたとんでもなく偉い人。並の人間なら「はは~光栄にござりまする」と地ベタに額をこすりつけて土下座するような人物だが、そんな権威を屁とも思わず、自分の幸せを最優先する生き方に至極共感した。