もっとも中国政府を信用していないのは中国国民? 「対中リスク管理」は中国企業を参考にせよ、といえる「納得の理由」
中国国内において政治リスクを何とか回避しようと試行錯誤する中国企業。特に多国籍企業となった大企業ほどその線引きや対応には苦心している。対中リスクマネジメント、経済安全保障対応については彼らから学ぶことも一理あると中国研究者でありインドの国立大学研究フェローの中川コージ氏は『日本が勝つための経済安全保障――エコノミック・インテリジェンス』(ワニブックス刊)のなかで語っている。本書より一部を抜粋編集してお届けする。 【写真】中国が「福島原発の処理水放出」を問題視した「ほんとうの理由」
政府の対応が見えづらい、ネットサービス分野
車や機械などのハードウェアは分かりやすいですが、ソフトウェア、つまりインターネットを介して提供されるサービスに関しては、どのあたりをどの程度、調整することで中国政府が各国の規制に対応しているのか、表面的には見えにくい状況にあります。 しかし今後、この分野が最先端となり、経済安全保障上も、これまでの「輸出規制」では対処できない領域に及ぶことになりますから、ネットサービス分野での中国企業の対応は参考にすべきでしょう。 ただし、タックスヘイブンの利用については、今後国際的な規制が厳しくなることは必至ですので、租税回避目的ではなく経済安全保障対応目的なのですから、超大国との距離がバランス良い国に登記をして、資本構成をマルチカラーにして適正な範囲で納税するというのが現実的に思えます。 また、国家側の視点としては、多国籍企業への対応には常にジレンマを抱えることになります。中国だけでなくアメリカも、ビッグデータを安全保障上の国家資源に位置づけました。国家が企業に対して「国からデータを出さないように」と命じる線引きが厳しくなることが予想されます。
リスク対策に長けた中国企業
一方で、貴重な国家資源をどう生かすかに国が介入しすぎ、ガチガチに固めようとすればするほど、企業が締め付けを嫌って他国へ流出してしまいます。その意味では、自国に巨大な市場(需要)がある国家はまだしも、そうでない国はデータ安全保障のルールを厳しく企業に課すことはできないということになるのでしょう。 多国籍企業と国家主体の綱引きは、経済安全保障によってさらに複雑になっていくことが予想されますが、事業における対中リスク管理ならびに経済安全保障対応は、中国企業から学ぶことも少なくありません。 最も中国政府を信頼していないのが中国国民と言われるほどで、どうすれば政府からの監視や圧力を軽減できるか、どこにリスクがあるのかを熟知しているのはもちろん、その対策にも長けているのが中国企業でもあるのです。熾烈な環境で育つ子供は逞しくなるロジックといえます。