もっとも中国政府を信用していないのは中国国民? 「対中リスク管理」は中国企業を参考にせよ、といえる「納得の理由」
「中国製造2025」
日米がそろって中国を(暗黙裡に)対象としている経済安全保障分野での提携を強めていますが、前述の通りこれに対して中国が、特別に大掛かりな法整備を急速展開することはなさそうです。もちろん、個別の品目や事象に対する規制アクションと対抗リアクションは常に展開されます。 中国にとっては、日本が経済安全保障を名目に注力しようとしている自国産業の振興やイノベーション活性化、サプライチェーンの強化などはすでにより大きな経済戦略の中に組み込まれていますし、米中から仕掛けられる可能性のあるエコノミック・ステイトクラフト的な攻撃に関しても、「相手がこうした行動をとってくる」可能性に関しては、当初より予測されているものでもあります。 確かにトランプ政権の「対中強硬姿勢」への転換の速度とその度合いは、さすがの中国にとっても予想以上だったようです。しかしそうした行動自体は予測不能なものではありません。たとえば、将来的に世界中で高性能の半導体の取り合いが始まる。どれだけ精密な半導体を得られるかが、その国のAIやスパコン、量子コンピュータなどの開発を左右する。となれば、アメリカは中国がこれをたやすく入手できないように動くに違いない。 中国はそれが分かっていたからこそ、「中国製造2025」を掲げ、半導体の国産化に取り組んできました。ただ、それがトランプ政権によってあまりにも急速的に推進されたということです。
中国の「等価報復」
また、ここまで中国は、アメリカなど相手から攻撃的施策を受けた際にほぼ同程度の施策を打ち返し続けてきています。たとえば「関税戦争」と言われたトランプ・習近平両政権の米中間での関税の掛け合いや規制の掛け合いを見ても、それは明らかです。 なぜ、同程度の施策を打ち返すのかと言えば、大きな理由は「アメリカにやられっぱなしとは何事だ! 弱腰じゃないか」という国内世論からの突き上げを食らわないためです。それでいながら、相手より飛び抜けてきつい対抗策を打ってしまうと、事態のエスカレーションを自ら引き起こしてしまいます。 中国はそうしたエスカレートを望んでおらず、あくまでも「等価報復」を行うことで国内世論を納得させながら、事態のエスカレートを引き起こさないよう注意深く反応してきました。 これは中国の戦略の大前提である「戦いません、勝つまでは」という姿勢の表れでもあります。中国はことを穏便に進め、自国の力を蓄え、相手を圧倒的に上回った時、つまり「戦って確実に勝てる状況」が出現して初めて戦いに打って出る、という戦略です。 また、日米、特に日本の場合には必要な国内の施策を打つための法律を考え、その範囲内でできる施策を打っていく、という順序になります。経済安全保障に関しても、重要インフラを担う民間企業に何らかの義務を課す場合には、法律が決まってからでなければ実施できません。