「下北沢」はいかにして古着の聖地となりえたか? 東洋百貨店オーナーに変遷を聞く
そして2020年代、さらに下北沢に古着屋が増えていく。 「ここ5年ほどでしょうか。特に下北沢駅の南口エリアを中心に古着屋の出店が加速しています。テナントが空けば古着屋が入るという状況。店主のこだわりを表現するだけでなく、ノンジャンルの店もある。古着がビジネスとして十分成り立っている印象ですね」 現在の古着ブームはいままでのどれとも異なる。雑誌やテレビではなくSNSが情報取得のメインとなったことで情報が集約されず、今回の古着ブームには決定的な「火付け役」がいない。 菅田将暉やKing Gnuのようなファッションアイコン。K-POPが広めた「Y2K」。平成レトロ。バンドTブームなどがパンデミック前後に一気に押し寄せ、その別々の嗜好が何かしらの形で「古着」と関連していたことでブームが巻き起こり、そのカオティックな熱狂をそのまま受け止めるように下北沢は古着の聖地となった。
再開発と「下北沢らしさ」
いまも下北沢は変わり続けている。2003年から小田急電鉄と京王電鉄が再開発計画を開始し、2019年に小田急下北沢駅の地下化が完了。「開かずの踏切」をなくし、駅前ロータリーを整備し、生活者にとっても利便性を高める計画が続いている。
「でも下北沢は意外なほど変わっていないんです。小田急さんも京王さんも駅前に商業施設を開店しました。その内容が面白い。ほとんどが小規模店舗が入居するモールなんです」 「BONUS TRACK」「reload」「ミカン下北」といった商業施設は、大手電鉄会社が経営するモールながら、そこを埋めているのはハイブランドやファストファッションではなく、小さなカルチャーショップばかりだ。
そして、再開発は今後も続く。 「山手通りから下北沢を通り、府中まで繋がる道路計画が始まっています。道路計画の下北沢エリアは『補助54号』と呼ばれる幅24mの道路、この道路の内側には8mずつの広い歩道が敷設されるのです。その歩道を使い、今までのロードサイドビジネスとは違う『下北沢流』のビジネスエリアを生み出せるということです」 いままでショップが入れ替わり立ち代わりアップデートを繰り返してきた下北沢に、数十年ぶりに手つかずのエリアが生まれる。この場所を「下北沢らしさ」を継承する空間にしたいという。 「いま、6つある商店街と町内会・世田谷区が手を組んでエリアマネジメントの会社の立ち上げを行っています。全国でも非常に例の少ない開発スタイルになるでしょう。しかし行政に任せず、自分たちで創りたい。それが何よりの『下北沢』の精神だからです。 課題はもともとこの土地に住んでいた人々と、街を訪れる人々のギャップがあること、そして、人口減少と少子化の対策を行うことです。私たちの次の世代の人たちにもこの計画に参加してもらいたいですね。まだこれからですが、闇市から始まった下北沢は、そう簡単にありきたりな街には変わりませんよ」 現在、下北沢に古着を求める人の目的はさまざまだ。希少なヴィンテージからチープな掘り出し物まで何でも揃う「古着の聖地」を思い切り楽しむなら、その背景にある歴史を想像しながら歩いてみることをおすすめしたい。