「こんなもん話になるか!」…「浪速のモーツァルト」キダ・タローさんが見せていた凄まじい「茶番力」と見事な「キレ芸」
「浪速のモーツァルト」
半世紀以上にわたって5000曲もの楽曲を残したキダ・タローさんが、2024年5月14日に亡くなった。享年93。「浪速のモーツァルト」と呼ばれる偉大な作曲家の訃報は全国ニュースで取り上げられ、耳に残るキダ作品を思い出しつつ喪失感にふける人々が多く見られた。 【一覧】テレビ局「本当は使いたくないタレント」…ワースト1位は意外な大御所…! ただ、かなりの地域で「誰それ? 作品を1曲も聞いたことない!」とおっしゃる方も多かったのではないか。 キダさんは93歳で亡くなるまで関西に拠点を置き、「かに道楽」「有馬兵衛向陽閣」などのCMソング、「ラブアタック!」「花の新婚!カンピューター大作戦」など、テレビ番組のテーマソングを数多く手がけた。 また、「出前一丁」(最後の「あ~らよ出前一丁~」部分 )や「アサヒペン」CMは全国でくまなく放送されており、ほか全国ネットの「2時のワイドショー」、桜金蔵さんのギャグの方が有名な「小山ゆうえんち」CMなど…「作曲家 キダ・タロー」としての存在を知らずとも、メロディはどこかで耳にしたことがあるはずだ。 キダさんが芸能界で半世紀以上も活動できた最大の理由は、自身が残した名曲の力であることは疑いない。不思議と商品名や番組名だけが耳に残る「キダ・メロディー」を振り返りつつ、なぜ「作曲家」という専門職にありながら、キダさんが大御所作曲家として扱われるようになったか、その理由を検証してみよう。
「キダ・メロディー」は自由自在
5000曲もの楽曲を残したキダ・タローさんの職業音楽家としての原点は、進駐軍が出入りするキャバレーなどでのピアノ演奏であったという。 これがジャズピアノだと、決まったコード進行のもとに即興でメロディを組み立てるような「演奏しながら作曲する」能力が必要とされる。さらに常連客からの「あの曲やって!」といったリクエストに応えるアレンジ力も必須だ。この頃の演奏・アレンジ経験のおかげか、キダ作品は自由自在にジャンルを組み合わせた作品が多い。 例えば「プロポーズ大作戦」なら「前半がファンク、中盤がクラシック調、最後に転調してファンク」。「ABCヤングリクエスト」の一バージョンでは、ボサノヴァのリズムに合わせてジャズピアノの対旋律が自由自在に動く。さらに「日本海みそ」は童謡、「お好み焼き千房」はシャンソン、「ジャンボカラオケ広場(ジャンカラ)」はリズム&ブルース…。 多岐にわたるジャンルの音楽をギュッと濃縮し、日本語のイントネーションに乗せて、数秒~数十秒の楽曲を作る。この作業は、各ジャンルの音楽の三大要素(リズム・メロディ・ハーモニー)が体にインプットされた状態で、商品やテーマに応じて引き出しをサッと引く「アウトプット」能力がないと、とてもできるものではない。 キダさんは「良心捨てたらなんぼでも書ける」と言いつつ、忙しい時には1日6~7曲もの作曲をこなしたという。畏れ多すぎる言い方ではあるが、音楽のインプット・アウトプット能力にすぐれ、瞬時に顧客(企業やテレビ局)の需要に合わせてアレンジする力を持ち得ていたからこそ、ここまでCMソング・テーマソングを量産できたのだろう。