茂木健一郎が教える「天才脳」に最も重要なこと
脳科学者の茂木健一郎氏が、棋士デビュー70周年の加藤一二三氏に初ロングインタビュー。いつもニコニコ朗らかな人柄で人気のひふみんだが、じつはある志に従い、意識して明るく振舞っている部分もあるのだとか。“天才脳”を鋭く分析するなかで見えてきた、ひふみんと世界の偉人たちとのある共通点とは?本稿は、加藤一二三、茂木健一郎『ひふみん×もぎけん ほがらか脳のすすめ 誰でもなれる天才脳の秘密』(集英社)の一部を抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● ひふみんのスランプを救った モーツァルトの曲とは 加藤 僕は音楽が趣味なので茂木さんの考察をお聞きしたいんですが、モーツァルトの音楽を聴いた人の脳からはアルファ波が出ると聞きました。 茂木 アルファ波はリラックスしているときというか、脳があまり乱れずに活動しているときに出るんですよ。もともと作曲時のモーツァルトの気持ちは、ちょっと晴れやかで、集中していて、明るいものだったと思うので、彼のその心の状態が聴く人に伝わるんでしょうね。加藤さんはモーツァルトの中ではどの曲をよく聴かれますか。 加藤 好きな曲はたくさんありますが、実際に対局の前によく聴いたのは「ピアノ協奏曲第20番」。この曲は短調で、どちらかというと物悲しい。それと僕は、「ピアノ協奏曲第22番」も好きです。「20番」も「22番」も好きだという人はめずらしいようですが。 茂木 そうですか。 加藤 映画『アマデウス』の中に出てきます。モーツァルト夫妻がもっとも幸せな時期に、ヨーゼフ皇帝の前で野外演奏会をする場面があるんです。そのときに使われるのが「ピアノ協奏曲第22番」で、もう弾むようなすばらしい曲。もちろん「レクイエム」、「戴冠ミサ」、「バイオリン協奏曲第3番」も好きですね。
あと、私は将棋でかなり大きなスランプに陥ったことがあるんですが、そのとき、とある対局の前日にモーツァルトの「バイオリン協奏曲第3番」を聴いたら明くる日に回復し、以後、勝ち続けました。演奏は今も健在の巨匠イツァーク・パールマン。僕は彼のバイオリン演奏の中にちょっと遊び心を感じたんです。それでスランプを脱した。 バイオリニストの高嶋ちさ子さんも、スランプに陥ったときにこの「バイオリン協奏曲3番」を聴いて脱したと言っていました。プロの音楽家と素人の僕がスランプから脱した曲が期せずして同じというのは、なかなかおもしろいと思います。 ● 次の一手を指すときは 必ず明るい気持ちで指す 茂木 音楽はどんなふうに聴きますか。 加藤 僕は「ながら聴き」はしません。集中して聴く。そしてひとつの曲をだいたい3回は続けて聴く。クラシックの名曲は集中して聴くことで、心が動かされたり、刺激を受けたりすると思う。音楽と真剣に向き合うことで気づきがあるんだと思います。 さっきのアルファ波の話ですが、ヨーロッパのブドウ畑では、クラシックの名曲を流していて、するとおいしいワインができるんだそうです。日本でも、お酒を造るときに名曲を聴かせるとおいしいお酒になるというのは本当のことのようですから、モーツァルトに限らず、クラシックの名曲は、アルファ波が出ているのかもしれないですね。