茂木健一郎が教える「天才脳」に最も重要なこと
茂木 脳科学的に言うと、アルファ波というのは本当にリラックスした状態ということなんです。加藤さんは将棋を指しているとき、波長やある種のリズムみたいなものを意識したりしますか。 加藤 数多く戦った中で、ある時期から心がけたのは、まず、着手するとき、次の一手を指すときは、かならず明るい気持ちで指すということです。曖昧模糊とした気持ちではなく、明るい気持ちでバシッと指す。モーツァルトも「元気でないと名曲はできない」と言っているように、快活で元気よく、というのはいいことかなと思っています。 茂木 加藤さん、そもそもいつも明るくて快活ですよね。 加藤 ええ。つらつら考えますと、キリスト教の信仰の影響かもしれません。例を挙げれば、100年以上前のカトリック教会の聖人で、ドン・ボスコ(1815~1888年)というイタリアの聖人がいるんです。彼は聖書の教育に力を尽くしました。その聖ヨハネ・ボスコには「人は快活がいい」「快活というのは神の存在を内に秘めている結果だ」という言葉がある。 茂木 なるほど。
● 創造的な人格のポイントは 「機嫌の良さ、上機嫌」 加藤 つまり「快活というのは神のお恵みが心の中で働いていることの証」だと言っているんです。そんなこともあって、僕はある程度、意識して明るく振る舞っている面はありますよ。 茂木 あっ、もともと明るいというより、意識されてそうしていると。 加藤 もちろんこの言葉に、「そうだよね」と心から納得してのことです。明るい、穏やか、柔和というのは、周りにいる人が楽になると言われますね。イエス・キリスト自身もおっしゃっている。「私は柔和で謙遜である」と。だから僕は「人はどんなことがあっても柔和を失ってはならない」ということをけっこう教訓や目標にしています。日常でも思い出すことがありますね。 茂木 ふーむ。あのね加藤さん、天才というのは一期一会で、なかなか繰り返せないので、科学的な研究はむずかしいんです。それにアインシュタインの脳を調べても、アインシュタインが相対性理論を考えたときの時代とは違うので、今、彼が生きていても同じようにすごい発明ができたかどうかはわからない。 だから天才という事象を一般化して研究するのは困難なのですが、ただ、天才を含む創造的な人格、創造的なパーソナリティがどういうものかということはわかっているんですね。