「プーチン支持率8割」にはカラクリがある…戦場に行きたくないロシア人がプーチンを支持する本当の理由
■プーチン氏自身も“物語に取り憑かれている” 長年ウクライナを軽く見てきたロシア人や、そうした感覚を共有してきた人々にとって、ウクライナ人が団結して侵略に抵抗し、ロシアが苦戦を強いられているという現実は、正面から直視したくないのだろう。 そうした人々にとっては、ウクライナは欧米にたぶらかされてロシアと戦わされている、助けがなければロシアにすがってくるはずだ、という物語の方がずっと受け入れやすいのだ。 誰よりもプーチン氏自身が、そうした物語に取り憑かれているようにも見える。前述したように、若年層は国営テレビよりもインターネットを主要な情報源としている。ウクライナでの軍事行動を支持する割合も、24年3月の調査では、65歳以上が86%に達するのに比べて、18~24歳の層では58%にとどまる。 ヘルソン州やザポリージャ州がロシアの一部になるべきだと考える割合も、開戦後のロシアで導入された言論統制法制への支持も、若いほど低い傾向ははっきりしている。 しかし、注意しなければならないのは、高年者よりも割合は少ないとはいえ、若い層も大多数がプーチン政権を支持し、政府の主張に賛同しているということだ。 あるロシアの専門家は、多くの若者にとって、今のロシア社会での成功とは公務員になったり、国営企業に就職したりすることだと指摘する。今のような言論状況では、上が変わらなければ世論も変わらない。もしもロシア世論が大きく変化するとすれば、指導者が交代して欧米との和解を模索する時なのかもしれない。 ■「強制動員令」にロシア世論が大きく動揺した ウクライナ侵略開始後、一貫してプーチン氏を支持してきたロシアの世論が目に見えて大きく動揺したことが1度だけある。2022年9月21日にプーチン氏が出した30万人の強制動員令だ。 強制動員が引き起こした騒動を見て私が思い出したのは、今から80年近くも前のできごとだった。国民的漫画『サザエさん』を生んだ長谷川町子さんの姉、毬子(まりこ)さんは、婚約者に召集令状が届いたため、急遽(きゅうきょ)結婚式を挙げた。わずか1週間の新婚生活の後、戦地に向かった夫はインパール作戦に駆り出され、帰らぬ人となった。 戦時中の日本と同じようなことが、現代のロシアで起きたのだった。ウクライナの戦場への動員が決まった男性たちが出発前に正式な結婚をしようと、将来を誓った相手と共に、続々と結婚登録所を訪れた。 ソ連、ロシアの歴史を通じ、国民を強制的に戦場に送り出す動員が発動されるのは、第2次世界大戦後はじめてだ。これは、市民社会に大きな動揺を広げた。 プーチン氏は、動員の対象となるのは「軍務経験のある予備役」であり、「特別な技能や経験を持つ者が優先される」と述べた。ショイグ国防相は、動員されるのは30万人であり、対象となる可能性がある2500万人のうちの1%強にすぎないと強調した。