ヤクルト村上宗隆が横浜DeNAの”逆発想攻め”で54号を封じられるも“美技締め”でマジック「11」点灯
ヤクルトは11日、満員の横浜スタジアムで行われた横浜DeNA戦に1-0で勝ち、7月29日以来消えていたマジック「11」が再点灯した。元阪神のランディ・バース氏に並ぶ54号が期待された村上宗隆(22)は、3打数ノーヒットに抑えられたが、あわや同点となるネフタリ・ソト(33)の強烈なライナーを好捕してゲームセット。この日は守備で貢献した。また先発の小川泰弘(32)が投げては7回を5安打無失点、5回に自らのバットで叩き出した虎の子の1点を守り切った。
「興奮して叫びました」
超満員のハマスタに“村神”のガッツポーズが映えた。 1-0で迎えた9回二死二塁。守護神マクガフがソトに投じた初球のスプリットを芯で捉えられた。強烈な打球が村上の頭上を襲うが、ジャンプ一番、伸ばしたグラブで横浜DeNAの“望み”をつかみとった。右手で派手なガッツポーズ。 「(村上の美技を見て)興奮して叫びました」 ベンチで見守っていた投打のヒーロー“ライアン”小川が歓喜の声を挙げた。 実は、村上は、一死一塁で、その前の打者、宮崎の強いゴロを体に当てて、お手玉。なんとか一塁はアウトにしたが、併殺を逃し、走者を得点圏に進めるという記録に残らないミスを犯していた。こういう走者の残し方は、流れを変える。 しかも、横浜DeNAの三浦監督は、ビハインドの展開で9回表に守護神の山崎を投入するなど、執念とも言える采配を見せて最後の攻撃に勝負をかけていた。だが、不穏なムードを作った張本人の村上が、自身のファインプレーでミスを帳消しにして7月29日に消滅していたマジック「11」を再点灯させたのである。 ただ、虎党に「神様、仏様、バース様」と呼ばれた阪神の”レジャンド”バース氏が日本一となった1985年に作った54号に並ぶ快挙は“お預け“となった。 横浜DeNAバッテリーが仕掛けてきた究極の村上対策の前に、そのバットを封じ込まれたのである。8月26日のヤクルト戦で、手痛い46号3ランを浴びた大貫―嶺井のバッテリーは、村上封じの基本である「内角球意識」の戦略を捨て、逆の発想で徹底的な外角攻めをしてきたのである。 1回二死二塁のチャンスで迎えた第1打席。4球連続で外角ギリギリに速球系のボールを集められ、カウント2-2と追い込まれると、1球だけ内角に投じたスライダーを見送って1球も振らずに三振に終わる。村上は、判定に不満な顔を浮かべた。外角を意識させられたことでボールに見えたのだろう。 第2打席は4回一死走者なし。ここも2球目に内角ストレートがボールになった1球以外、投じられた5球は、すべて外角球。最後は外角スライダーに手を出してレフトフライに終わった。 一昨年まで阪神のコーチを7年間務めた評論家の高代延博氏は、「村上は配球を読む技術に長けている。最初から内角を狙うときはあるが、基本的にベースから離れて立ち、外角の甘いボールに目付けして、ボールをできるだけ引きつけ、コンタクトすることを意識している」と分析していたが、大貫が投じた外角球は、その村上の「ホームランゾーン」から、ボール半個から一個分外側を絶妙のコントロールで攻めたものだった。 「得意ゾーンの近くに弱点あり」は、ID野球を標榜したヤクルトの名将、故・野村克也氏が、よく口にした配球のコツだが、そこを大貫は勇気を持って攻め抜いたのである。 だが、さすがに、そのバッテリーの意図を村上は感じとった。得意ゾーンのひとつ外へと、打つべきストライクゾーンを広げた。6回の第3打席も1球、2球と、また外角を攻められてカウント1-1となったが、145キロの外角のストレートを狙い打った。打球は高々と左中間フェンスにむかったが、桑原はフェンスに激突しながらキャッチ。マジック再点灯阻止に燃える執念のプレーに長打を阻まれた。 8回の第4打席は、大貫から伊勢に変わったが、ここでも外角攻めは変わらずカウントが3-1となったことで歩かされた。 村上は失投を見逃さない。内角攻めは有効だが、そこには失投のリスクが伴う。どうせ失投のリスクがあるのであれば、危険な内角よりも外角球。それも村上の得意ゾーンのボール半個から1個さらに外側を攻めるという逆転の発想。大貫のコントロールがあったからこそできた村上封じだったのかもしれないが、今後、クライマックスシリーズで、横浜DeNAと再度対決することを考えると、村上にとって頭を悩ます配球になったのかもしれない。