ヤクルト村上宗隆が横浜DeNAの”逆発想攻め”で54号を封じられるも“美技締め”でマジック「11」点灯
だが、「村上だけじゃない」強さがヤクルトには備わっている。 この日のヒーローは8月はわずか1勝と調子を落としていた”ライアン”小川である。 「とにかく攻める気持ちで投げていきましたし、強力打線だったのでとにかく分断できるように、そういう思いで粘っていこうと思って投げることができました。 いいスタートを切ったが、横浜DeNA打線に食らいつかれた。 3回に森に6球ファウルで粘られ、センターフライに打ち取るのに10球を要し、さらに投手の大貫に6球、桑原にも10球粘られたあげく、ショートのエラーで出塁され、この回だけで、28球の球数を要した。本来ならボディブローとして、効いてくるはずが、小川は集中力をキープした。 「首位攻防ということで下手なゲームはできないですし、相手も勢いに乗っていたと思うので、なんとか食い止めたい、そういう思いで投げていました」 6.5ゲーム差で2位につける横浜DeNAとの首位攻防戦の大事な初戦を任されたエースの自覚があった。 最大のピンチは0-0で迎えた4回。一死一塁から牧にライト前ヒットでつながれた。だが、ライトの山崎が猛チャージをかけて走者を二塁でストップさせた。一死一、二塁で5番の宮崎を迎えた。小川は初球からフォークを連投した。ツーシームで内角を攻めカウント1-2にするとまたフォークを連投。宮崎は、その配球に戸惑ったのか。最後に外角低めに144キロのストレートを決められるとバットを動かすことができなかった。 さらに続くソトにもファウルで粘られてフルカウントとなった。ここも7球すべてが変化球でストレートは1球も投げていなかった。しかし最後の最後にインコースをストレートで攻めた。ソトの当たりはレフトの正面。緩急が効いた。 「中村悠平選手と、しっかりと話し合って緩急を使いながら真っすぐもそんなに速くないので速く見せられるように工夫しながら投げられたと思います」 投げるだけではなかった。 0-0の均衡を破ったのは、自らのバット。5回、先頭の青木が出塁すると一死となってから長岡の打席で、カウント1-1からエンドラン。鋭く落ちる変化球に長岡のバットは、空を切ったが、青木は盗塁に成功した。リクエストをかけられたが判定は変わらず。長岡はライトフライに倒れ二死となって打席に小川である。小川は、暴投を誘い、二死三塁となったところで、詰まりながらも、強引にセンター前へタイムリーを落としたのだ。 「必死に振りにいった結果が外野の前に落ちてくれて良かったです」 もし無難に当てにいっていれば、打ち取られていただろう。必死のフルスイングが生み出したタイムリーである。 小川は7回を110球5安打無失点。8回からバトンを受けた清水も、二死二塁から代打オースティンを三塁ゴロに打ち取るなど、無失点リレーをつなぎ、9回の大ピンチもマクガフと村上の美技で振り切り、マジックを再点灯させた。 日替わりのヒーローが生まれるチームは勢いがある。紙一重の好ゲームだったが、その紙一重を勝ち切る部分が、昨季Vの経験であり、ヤクルトの強さなのだ。 残り17試合でのマジック「11」。ゴールは近いようで遠い。 緊迫の熱戦を演じながらも敗れて自力Vの可能性が消滅した横浜DeNAの三浦監督も、試合後に「あきらめが悪いのでしつこいくらいやっていきます」と宣言するなど、まだ奇跡的ワンチャンスを狙っている。その意味でも重要なのが今日12日の第2戦。横浜DeNAは、大貫に続き、エース今永の登板間隔を中5日に縮めてぶつけてきた。ヤクルト先発の原の出来と、封じられた村上が、バース氏の記録に並べるかどうかがポイントになるだろう。勝てばマジックは一桁の「9」となる。