三笘薫からも「素晴らしい」 スタンドから起きた大合唱…遠藤航がリバプールで必要とされる唯一無二の能力【現地発コラム】
遠藤はまだまだ必要とされている
そのリーグカップでは、遠藤の交代に悲観的な見方もあったに違いない。今季2度目の先発出場は、2点差でリードしていた後半19分、17歳のMFトレイ・ニョーニとの交代で終わっている。 もっとも、スロット監督からは後半早々のイエローカードを交代理由とする説明があったとのこと。試合前の会見で、ピッチ上での時間を与える必要性を認めていた指揮官だったが、準々決勝にも遠藤がいる重要性を優先したわけだ。 アメックス・スタジアムでのブライトン戦序盤は、ほぼひと月前の前回先発以降、リバプールでの出場時間が計15分程度だった影響は見受けられた。前半3分、タッチライン付近でプレッシャーを受け、相手スローインとなったバックパスのズレなどは遠藤らしくなかった。一方で、相手ペナルティーエリア付近からガクポへのスルーパスを狙った同7分のように、新監督の注文を意識する今季の遠藤らしいプレーも見られた。 しかし、遠藤が遠藤たる所以は、その直後のプレーにある。本職ボランチとして最も有効なアピール手段は、やはり本来の持ち味。フラーフェンベルフに勝る守備の本能だ。 やや強すぎたスルーパスが相手ゴールキックに終わり、敵が速攻に出ると、中央を駆け戻った遠藤は、自軍ボックスの手前でルーズボールの競り合いに勝利。反応が一瞬遅れた相手のトップ下、フリオ・エンシソと接触して倒れると、背後のゴール裏スタンドに陣取っていたリバプール・サポーターから、「ウィー・ラブ・ユー・エンドー!」の合唱が起こった。 続くホームでのリーグ戦対決、総体的に言えば、リバプールにとってチームとしての姿勢と執念の勝利だったと言える。ベンチを出るや否や、勝つためにやるべき仕事に徹した遠藤も、その勝因を体現していた。 遠藤は、リバプールの戦力として、まだまだ必要とされている。逃げ出すことなどなく、戦い続ける価値は十分にある。 その事実は、ゲスト同伴につき立ち止まることはなかったが、焦りとは正反対の穏やかな表情でミックスゾーンを通過した本人が認識しているはず。ベンチワークが奏功した、新監督も。そして、試合後の指揮官が「実感した」と言う「アンフィールドの力」を生み出す、サポーターたちも。 [著者プロフィール] 山中 忍(やまなか・しのぶ)/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。
山中 忍 / Shinobu Yamanaka