武蔵小杉の「ママ友ができる授乳室」はブランド価値アップの切り札
お金をかけてでもメリーゴーラウンドをつくりたいとクライアントが考えたのには、どんな理由があるのだろうと思ったのです。しつこく私が尋ね続けると、「お子さまに、ここでしかできない体験を提供したい」という答えが返ってきました。そうか、「ここでしかできない体験」なのか。そう得心して、私は新しい提案をしました。 ●クライアントに「なぜ?」を問う その結果、グランツリー武蔵小杉の屋上に、緑あふれる広い公園ができました。チョークで落書きができる「こくばんのゆか」や、滑り台、平均台といった遊具がそろっていて、子どもたちが体を動かして遊んでいます。その傍らで、ママとパパはベンチで休憩したり、おしゃべりをしたり。これも「ここでしかできない体験」です。そのうち自然と、ほかの子どものママやパパたちとの間に会話が生まれ、友だちになっていきます。コンセプトは「行けば、誰かに会える公園」。 4階には、メリーゴーラウンドの代わりに、子どもたちが靴を脱いで遊べる人工芝の広場をつくり、真ん中に大型スクリーンを設置しました。大型スクリーンには、遊ぶ子どもたちの姿が映し出され、子どもたちの動きに合わせて、スクリーンを流れる風船の画像が割れたり、魚が逃げたりします。映像を見てはしゃぐ子どもたち。その様子を大人たちが見守れるよう、広場の周りにすり鉢状の座れるスペースをつくりました。これなら、パパやおじいちゃん、おばあちゃんも、しばらく子守ができます。すり鉢状ですから、子どもたちを見下ろす形になり、ちょっとスマホを眺めていても、子どもの様子は目に入ります。狙いは、ママたちに40分、一人の時間を提供すること。子どものことを40分、誰かが見ていてくれれば、洋服を試着できます。狙いが当たって、広場はずっと盛況です。 屋上の公園と4階の広場、そして「ママ友ができる授乳室」の3点セットは、ムサコのファミリー層を強力に引き付け、グランツリー武蔵小杉は、地域の人たちに愛される商業施設になりました。 余談かもしれませんが、メリーゴーラウンドのときのように「理由を問う」というのは、ブランディングに限らず、あらゆる仕事で大事な姿勢だと私は考えています。リーダーには、特に不可欠です。リーダーになったら、あらゆる行動に理由がなければなりません。理由がない行動が存在してはいけないし、その理由を説明しなければいけないし、自分の行動の理由をメンバーに説明できないのなら、そもそも人の上に立つべきではない。そう思いながら日々、経営者の仕事をしています。
柴田 陽子