授乳室の場合は、個室であることが「当たり前」で、なおかつ、個室であることに「ネガティブな感想」を持つ人もいました。とすれば、授乳室を個室でなくすることで「ポジティブな感想」を多く集めることができるかもしれません。それに成功すれば、ファンを引き付ける、強力なタッチポイントになります。 　もちろん、個室がいい人もいますから、個室の授乳室もつくりました。けれど、グランツリー武蔵小杉の授乳室で、センターに来るのは大きなテーブルです。大きなテーブルで隣に座った人とおしゃべりをして、ママ友になる。だから、自分は孤独じゃないと感じられる。人のぬくもりを感じる、愛を感じる。この大きな授乳室のテーブルは、「愛を感じる商業施設」という、施設全体のコンセプトにもつながっています。ターゲットとなるママたちの中にポジティブな感想を生む、戦略的なタッチポイントです。 　授乳室の話が長くなりました。 　授乳室の話をブランディングの文脈で整理するなら、「郊外の暮らしって最高！」という、施設全体のコンセプトに向かっていくため、戦略的にタッチポイントを設計した、ということです。 ●メリーゴーラウンドにお金をかけるべきか？ 　大型商業施設の「グランツリー武蔵小杉」とお客さまとの間には、たくさんのタッチポイントがあります。たくさんある中で、特に授乳室は重要なタッチポイントだと、私は判断しました。タッチポイントとして重要だから、施設全体のコンセプトとは別に「ママ友ができる授乳室」というコンセプトも補強的につけました。こういうやり方を、私たちはよくします。 　重要なタッチポイントには、リソースを優先的に使います。お金も人手もかけるということです。 　繰り返しになりますが、お客さまがブランドに触れるタッチポイントは、たくさんあります。すべてにふんだんにお金をかけることはできません。ですから、タッチポイントを整理し、どこのタッチポイントにどの役割を任せるかを考え、重要な役割を担うタッチポイントに集中的に予算をかけるというメリハリが必要です。グランツリー武蔵小杉では、それが授乳室でした。 　けれど、クライアントはまさか授乳室にお金をかけることになるとは思っていません。 　一方で、4階にメリーゴーラウンドをつくるという計画がありました。 　「どうして、メリーゴーラウンドなのですか？」と、私は尋ねました。しつこく尋ねました。なぜなら、メリーゴーラウンドにはお金がかかります。それなのに一度に遊べる子どもの人数は限られ、もったいないように感じたからです。 　だからといって、何が何でも反対したいということではありません。