授乳室が商業施設の「顔」になる理由

　当時、私自身も子どもを生んで間もなく、乳幼児の子育てを経験していました。 　商業施設の授乳室には、嫌な思い出がありました。都心の大きな商業施設にあるレストランで、あるとき家族で食事をしていたら、子どもが泣いて、「ちょっと授乳室に行ってくるから」と、子どもを抱っこして席を立ちました。施設内の授乳室はすべて個室で、どこも埋まっていました。だから「授乳室難民」のようになってしまって、商業施設の中をくまなく歩き回り、ようやく空いている授乳室を見つけ、くたくたになってレストランの席に戻ると、「随分、時間がかかったね」と家族に言われて、げんなりしました。 　一方で、病院の授乳室には、いい思い出がありました。よく通っていた病院の授乳室は大部屋で、たくさんのお母さんたちが授乳しながら情報交換をしていました。例えば、「お子さん、何カ月ですか？」「10カ月ですか？　じゃあ、うちの子よりちょっと先輩ですね」「その湿疹、どうですか？　うちの子にも湿疹が出ているんですが、どうしたらいいのかなと思っていて……」といった感じです。最初のママ友ができるきっかけをつくってくれたのが、病院の授乳室でした。 　だから、武蔵小杉の授乳室は「ママ友ができる授乳室」にしようと思いつきました。それまで商業施設で主流だった個室ではなく、病院のような大部屋で、たまたま隣に座った人とおしゃべりできる「コミュニケーション型授乳室」にする。これは、この商業施設の「顔」になるはずだ、と。 　我ながらいいアイデアだと思いました。なぜなら「授乳室は個室」という、これまでの商業施設の「当たり前」にメスを入れるアイデアだからです。 ●「当たり前」で「不満」が多かったら、チャンス 　アイデアを出す仕事をしていると、斬新な案に対して「いや、これはもう決まっていることだから」とか「これまでも、こうだったので」といった理由で抵抗に遭うことがよくあります。却下されたご経験をお持ちの方も、少なくないでしょう。却下する相手は、だいたいあきれた顔をしています。要するに「そんなの当たり前じゃないですか」ということです。 　そういうときほど、チャンスだと思います。なぜなら「当たり前」になっていることを変えれば、差別化になります。却下された理由が「当たり前」だったら、そこは粘って掘り下げ、よく考えたほうがいい。これはもしかしたら、成功の糸口かもしれない、と。 　「当たり前」にもう一つ付け加えるなら、誰もが不満を持つところにもチャンスがあると思います。