命を延ばす薬(2)心不全に対するβ遮断薬は1カ月半の延命効果
心筋梗塞などの心臓病を発症すると、心臓の機能が低下し、やがて血液を十分に送り出せなくなってしまうことがあります。 治療を受けてもよくならない…それは「心臓の肥満」かもしれない 心臓のポンプ機能が低下したこの状態は心不全と呼ばれ、全身がむくんでしまったり、息切れや疲れが出やすくなったりします。心不全の治療にはさまざまな薬が用いられます。β遮断薬はそのうちのひとつです。 心不全に至ると、衰えたポンプ機能を補おうと、心臓の働きを活性化するためのホルモンが分泌されます。 アドレナリンは心臓の働きを活性化するホルモンのひとつですが、長きにわたってアドレナリンが分泌され続けると心臓に大きな負担がかかり、心不全の状態がよりひどくなるという悪循環が生じます。 β遮断薬は、アドレナリンの働きを抑えることで心臓にかかる負担を減らし、ポンプ機能を維持する目的で使用します。心不全に対するβ遮断薬の効果については、いくつかの臨床試験で死亡リスクの低下が報告されており、延命に対して一定の効果が期待できると考えられてきました。 また、臨床試験3件を統合解析した研究論文によれば、プラセボを服用した場合と比べて、β遮断薬を服用した場合では平均43.7日間の延命効果が示されました。この延命効果は3年間にわたる追跡調査を前提としたデータであり、実際の寿命に対して適用した場合には、より長い延命効果が期待できると考えられます。 追跡調査の期間と延命効果が比例すると仮定するならば、30年間の治療で437日の延命効果が得られることになります。 ただし、これは単純計算に基づく筆者の仮説であり、実際の延命日数については、生活習慣や心不全の病状などにより人によってさまざまだと考えられます。つまり、大きな延命効果が得られる場合もあれば、そうでない場合もあり得るということです。 一方、近年では、心筋梗塞を発症したとしても心臓のポンプ機能が衰えていない状態であれば、β遮断薬で得られる延命効果が小さくなる可能性も報告されています。 心筋梗塞に対する医療技術はこの30年ほどで大きく進歩しており、心筋梗塞後に心不全を発症するリスクも減少しています。 外科手術の技術的な向上や心臓病の早期発見を可能とした診断技術の確立などによって、β遮断薬の見かけ上の有効性は相対的に減少しているといってもよいかもしれません。 (青島周一/勤務薬剤師/「薬剤師のジャーナルクラブ」共同主宰)