シードル・ゴールドの屋根が輝く〈弘前れんが倉庫美術館〉と近辺の名建築【青森でアートを巡る旅へ】
●弘前で前川國男の建築を見る
弘前は前川國男の作品が多く残ることでも知られる。前川は1928年に渡仏、ル・コルビュジエのもとで学び、1930年に帰国してパリで親交のあった木村隆三から〈木村産業研究所〉(1932年)の設計を依頼される。前川の母が弘前出身だったこと、木村隆三の兄であり、青森県立弘前中央高等学校のPTA会長だった木村新吾が同校の講堂を依頼したことなどから前川は弘前で多くの建築を手がけることになった。 そのうちの一つ、〈弘前市民会館〉(1964年)は音響が美しい大ホールや喫茶スペースなどがある建物。コンクリート打ち放しの壁には木目がくっきりと現れている。これは型枠のあとをわかりにくくするための工夫の一つでもある。弘前は豪雪地帯でもあるため、窓の彫りを深くして雪がたまらないようにしている。天井照明は前川が他の作品でも多用した、ダウンライトを星空のように配したランダムなもの。楽屋入口など、随所に前川が「フェラーリのような赤」と表現した鮮やかな赤が使われている。
●黒石市の伝統の街並みで今を楽しむ
黒石市は弘前市、青森市、十和田市に囲まれた市だ。弘前藩の分家筋にあたる黒石藩がもとになっている。この黒石市の西部、弘前市との境界に近いところにある「中町」は青森と弘前を結ぶ交通の要所として栄えた。通りに面して酒屋などが建ち並び、往時を偲ばせる。
この中町では通りに面したところに木製の庇が張りだしていて、雨や雪の日でも濡れることなく通行できる。この庇は「こみせ」と呼ばれていて、かつては総延長キロメートルもの長さに及んでいた。しかし時代の波には勝てず、大半が消失。その中で中町の「こみせ」のみが往時の姿を残している。
〈Circleこみせ〉は中町の空き店舗・旧須藤善百貨店(現・スドゼン+)1階の角部屋を活用してシェアスペースにしたもの。ともに建築家である古川正敏と澤﨑綾香夫妻が改修、2021年からシェアスペースとして運営を手がけている。1階には1日から借りられるシェアキッチン、〈スドゼン+〉の2階にはショップやオフィスが入居し、町のコミュニティスペースにもなっている。現在、2階の倉庫だった部屋をシェアアトリエとすべく改修中だ。2人は横浜市から青森に移住して建築設計と〈Circleこみせ〉と〈スドゼン+〉の2階の事業を手がけている。日々、何か新しいことが生まれるスペースだ。
photo_Takuya Neda text_Naoko Aono editor_Keiko Kusano