シードル・ゴールドの屋根が輝く〈弘前れんが倉庫美術館〉と近辺の名建築【青森でアートを巡る旅へ】
展示室の中でも天井の高い、壁のコールタールが露出した空間ではインスタレーションが鑑賞者を出迎える。室内に入ると4枚のスクリーンに映像が投射され、その上方にたくさんの花が設置されているのが見える。花は枯れたものばかりのように見えるのだが、スクリーンに囲まれたエリアに入ると手の届く高さにまで花が咲き乱れている。その中だけ聖域か、桃源郷のようになった空間が現れるのだ。
もう一つのメイン企画は『白神覗見考(しらかみのぞきみこう)』と題されたリサーチ・プロジェクトだ。ユネスコ世界自然遺産である白神山地をテーマに4組のアーティストたちがそれぞれの視点で制作した作品を展示し、ワークショップやイベントなどを行う。
美術館の内外には狩野哲郎の作品が設置されている。りんごの受粉を助けてくれる蜂の巣箱を使った作品では、実際に蜂が巣箱を出入りしていたこともある。人間からは蜂がそこに住み、りんごの蜜を集めるときに花粉が蜂の体について受粉が行われるというプロセスが想像されるけれど、蜂からはまた違った世界やストーリーが見えているに違いない。人間も少し想像力を働かせて他の動物が世界をどう見ているのかを考えてみてもいいだろう。
永沢碧衣は秋田県出身で、現在も秋田を拠点に絵を描いている。つまり、白神山地を秋田県側から見ていることになる。狩猟免許を持ち、マタギのもとで伝統的な狩猟を学んでいる彼女は、駆除したクマの皮からとった膠(にかわ)で制作している。彼女の作品は釣りや狩猟などの実体験に基づいたものだ。マタギ文化と関わりながら生命の根源を探っている。
〈弘前れんが倉庫美術館〉
2020年開館。改修設計:田根剛。主なコレクションに奈良美智、ジャン=ミシェル・オトニエルなど。 青森県弘前市吉野町2-1。9時~17時。年末年始、火曜休(祝日の場合は翌日に振替)。2024年8月6日は開館。※弘前さくらまつり及び弘前ねぷたまつりの期間中は全日開館。展覧会『蜷川実花展 with EiM: 儚(はかな)くも煌(きら)めく境界 Where Humanity Meets Nature』、『弘前エクスチェンジ#06「白神覗見考(しらかみのぞきみこう)」』は2024年9月1日まで。一般 1,500円ほか。公式サイト