「いつ自分が被害者になるかはわからない」カスハラで苦しむ社員に産業医が教えている"身を守るための行動"
■取引先企業に「目をつけられた」Bさん 違う会社で勤めるBさんは、取引先企業がストレスでたまらないと産業医面談に来た40代の男性でした。 聞いてみると、取引先企業の特定の人物がいつも高圧的できつくBさんに当たるそうでした。そのような中、睡眠障害を始めいくつかのストレス症状を自覚したため、産業医面談に来たとのことでした。 取引先からのハラスメントの場合も、産業医の勧める対策は基本的には同じです。症状に応じて医療受診をすすめ、同時に、同じように被害を受けている仲間を見つけ、一緒に愚痴ることで、ストレスを溜め込まないように促します。その間に、企業間のルール(契約内容)を確認すること。また、実際にどのようなことがあったかを記録し、上長も絡めて会社として対応してもらうことをお願いしています。 Bさんの場合、同僚たちはいましたが、Bさんのみが目をつけられてしまっているようであまり共感しあえる人はいませんでした。ハラスメントの記録を作り上司に報告するも、取引先への遠慮もあり、また、被害を訴えたのはBさんだけだったため、あまり真摯に受け取ってもらえなかったと、数カ月後の産業医面談でBさんは教えてくれました。残念ですが、仕方がないとBさんも諦めているようでした。 ■上司に関与してもらうこと、記録をつけることが重要 現在、Bさんは睡眠薬を併用しながら働いています。不定期ですが産業医面談に来てくれ、状況を教えてくれます。週末は趣味のテニスで気分転換し、平日は耐え忍んでいるとのことでした。異動希望を会社に出しているものの、まだ前向きな話は来ていないとも教えてくれました。 産業医としてはやるせない感じがしてしまいますが、面談に来られた時は、少しでもBさんに楽になってほしいとしっかり話を聞き続けたいと思います。 近年、いろいろなカスタマーハラスメントやサプライヤーハラスメントの話を聞きます。“お客様は神様”的な価値観の中では、企業の対応担当者が精神的に疲弊してしまうことも少なくありません。 いつ自分が被害者になるかはわかりません。もしそうなってしまった時は、自分の気持ちを打ち明けられる信頼できる仲間(人間関係)を作り、一人で抱え込まず話す(愚痴る)ことができると、たとえ状況が変わらなくてもかなり気持ちは楽になります。 そしてその間に、上司に関与してもらうことと、身を守るために記録をつけることが大切です。社内規定に注意しつつ、録音・録画、メール等を印刷して保存するなど、いつどこでどのようなハラスメントを受けたか、しっかり記録するのです。また、その場面に居合わせた人についてもメモしておきましょう。後々の調査に役立つことがあります。