降圧剤データ不正問題、真の原因は「薬価統制」だ
【上昌広/内科医・東京大学医科学研究所特任教授】 臨床研究を巡る不正が世間を騒がせている。7月11日には京都府立医大、30日には慈恵医大が、ノバルティスファーマ社(ノ社)が販売する降圧剤バルサルタンに関する臨床研究に不正があったことを認めた。 マスコミは「医師と製薬企業の癒着」とレッテルを貼り、関係者を糾弾している。批判を受け、製薬企業は、大学への奨学寄付金や、医師との金銭授受について見直すという。 これらは、確かに重要だ。ただ、これだけでは問題は解決しない。なぜ、製薬企業と医師が、このような行為に走ったのか、その理由を深く掘り下げて考えねばならない。私は、今回の不祥事の原因は「政府による薬価統制」にあると考えている。
国会のチェックなしに決まる薬価
我が国の製薬・医療業界の特徴は、強力な厚労省支配だ。そのツールの一つが、厚労省に設置された中央社会保険医療協議会(中医協)を介した価格統制である。中医協を構成するのは、厚労省と日本医師会、保険者、製薬企業関係者などの業界関係者だ。 国会のチェックも受けない一つの審議会で、薬や医療行為の価格が、全国一律に決定されるのだから、そこには様々な思惑が反映される。医薬品も例外ではない。 医薬品は、大きく三種類に分類できる。それは特許期間中のブランド薬(新薬)、特許が切れたブランド薬(長期収載品)、そしてジェネリックだ。 我が国の薬価の特徴は、新薬が安いことだ。例えば、大塚製薬の新薬トルバプタン(15 mg錠)の場合、日本の薬価は2525円だが、米国では274ドル、欧州では78-96ユーロだ。我が国の薬価は、米国の8分の1、欧州の3分の1程度である。 一方、我が国では、長期収載品とジェネリックが高い。特許が切れても、新薬の値段はあまり下がらないことになる。ジェネリックも新薬の70%程度の価格で販売される。 これは、特許がきれると、新薬の価格の1%程度の値段のジェネリックが出現する米国とは対照的だ。 2009年時点で、我が国の医療用医薬品に占める新薬の比率は49%、長期収載品は44%だ。米国では、それぞれ74%、13%。欧州では60%、20%程度だ。