夏の甲子園の裏で開催されたもうひとつの高校野球 「リーガ・サマーキャンプ」って何だ⁉︎
トーナメント戦では負けたら終わりのため、実力の高い者が優先的に起用される。対して、負けても次があるリーグ戦では、多くの選手にチャンスが与えられすい。 先述した田上は、普段と異なる視点を持てたことがプラスになったと言う。 「トーナメント制の高校野球は勝利至上主義になりがちだと思います。自分はありがたいことに高校で投げさせてもらった立場ですが、リーガ・サマーキャンプはリーグ戦なので、ピンチの場面をベンチから応援することもありました。いつもなら自分が投げていたんだろうなと思いましたけど、そこをベンチから応援したのはすごくいい経験になりました」 日大鶴ヶ丘では一度も公式戦でベンチ入りできず、「自分が主役になりたい」と参加したのが、右腕投手の牧野晴太朗だ。 「小学校から野球をやってきて、今回リーグ戦の最終戦で自分なりにいいピッチングができました。石田充冴くん(北星学園大付)、澁谷くん、田上くんなどからすごく刺激をもらいました。もととも、ここでひと区切りになればと思って来たけど、大学で目標を持って高いレベルでやりたい気持ちも芽生えてきました」 実戦のなかでこそ、選手は最大限に成長する。その機会を設けやすいのがリーグ戦のメリットだ。 反面、リーグ戦は「負けても次がある」からトーナメントより緊張感が薄れるとも言われるが、そう考えるのは未経験だからではないか。そう指摘するのが元ロッテのクローザーで、リーガ・サマーキャンプに指導者として参加した荻野忠寛氏だ。 「プロ野球は、全チームが全試合勝ちにいっています。結局『あと1勝していれば優勝できたのに......』となるので。『負けても次がある』と臨んでも、『待てよ。次に負けたらあとがなくなる』と緊張感が高まってくる。高校生たちは試合経験を積めただけでなく、リーグ戦の緊張感を知れたのはプラスだと思います」
【全選手が主体的にプレー】 今回、エスコンでプレーできることを目的のひとつにエントリーした参加者は多くいたが、ファイナルに進めるのは上位2チームのみ(※残り2チームは打者一巡のミニゲームを実施)。勝たなければエスコンでの一戦に出場できないなか、実力者を優先的に起用するのか、なるべく均等に出場機会を設けるのか。そうしたチームの起用方針も高校生たちが決めた。 リーガ・サマーキャンプの4チームには監督が置かれず、代わりに元高校球児の大学1年生がコーディネーター(チューターのようなイメージ)を務める。試合中にコーディネーターがサインを出すチームもあれば、ノーサインで戦うことを選択したチームもあった。 「バモス! バモス!」 チャンスでベンチの柵に登り、指笛を交えて盛り上げるチームもあった。日本の高校野球というより、ラテンアメリカのように闊達な雰囲気だ。試合に入り込み、自然にそうした雰囲気になったと若井は語る。 「高校野球のようにベンチでずっと叫んでいるのはなく、必要な声だけを出している感じです。高校野球ではベンチに座ってはいけないチームもあると思うけど、ここでは座って休憩したり、声を出したりできる。本当にやりたいことをできるのがリーグ戦のいいところだと思います」 指導者に促されるのではなく、自分たちが必要と考えて声を出す。リーガ・サマーキャンプでは全選手が主体的にプレーし、「野球が楽しい」と自然に口をつくような環境がつくられた。 高校野球との違いで言えば、木製バットの使用もひとつだ。前述の若井は桐蔭学園では1年時からOBの勧めにより練習では木製バットを使用し、大学を見据えて実戦で「慣れたい」というのが参加理由のひとつだった。結果、エスコンのファイナルを含め2本の本塁打を放っている。 「木製は金属より飛びにくいから、どうやって飛ばそうかと考えるから練習の質が上がります。自分に力がつけばつくほど、木製でもうまく打てば飛んでいく」 対して、投手目線で木製バットのメリットを語るのが、最速144キロの田上だ。 「金属バットで真芯を食われたら長打があるけど、木製では芯が狭くなるのでストライクゾーンで勝負できる。コントロールも大事だけど、自分の球ならベース盤の上で勝負できると感じられました」