経産省を休職してパリの名門ビジネススクールで学び、名古屋スズサンへ 「日本の職人技を海外市場で横展開する」未来を描く 井上彩花
自律性の面では、インターンシップでグローバル企業の立場から日本の企業に関わる経験をした。両面から見られたことが面白い経験だった。違う主体が協業する中で起こりやすいコミュニケーションの課題として、言語の壁や商習慣の不理解がある。
言葉の壁は、外国語能力が前提になると思う。流暢でなくとも、いい雰囲気で会談を終えられるような社長のコミュニケーション力や前向きさが、ブランディングの観点からも重要。これに加え、ビジネスのチームで英語でコミュニケーションする人材を雇い、育てることは必要だろう。商習慣の不理解についてはビジネスのスピード感など前提となる考え方が違う可能性があり、一つ一つコミュニケーションで解決するしかない。自律性を担保することと柔軟性を失うのは違うことで、組織だけではなく自分個人としても感じた点だ。
有松を起点に人の循環を生み出す
WWD:今回のWWDJAPAN SUSTAINABILITY SUMMITでは地方の産地の循環型、再生型のビジネスがテーマの一つだが、どのようなことが考えられると思うか?
井上:「スズサン」のブランドの存続意義がモノを作って技術を次世代につなげることがある。そして、循環を違う風にとらえると、有松を起点に人の循環を生み出していくことを通じて地域に裨益させていきたいと考えている。現在の売り上げの8割が海外で、次の15年は、お客さまに有松・鳴海に来てもらうことに取り組みたい。毎シーズン2500~3000点、1年で約5000点を職人が製作していて、15年間のブランド運営で駆け出しの5年間を抜いても5万点の商品を作ってきた。ほとんど受注生産を続けているような状態で、1人1品購入していただいたとしても5万人に届いてきたことを考えると小さくない数字だと考えている。
地域に技術のコアがあることを踏まえても、有松・鳴海に来てもらうことをかなえてもらうためにツーリズム事業を手掛け始めたところ。ブランドのコアに技術があること、地域との接続性が無視できない大切なところで存続意義がそこにある。私たちの取り組みで有松の町への効果が波及していくかをデザインしていくことを忘れてはならないと思っている。有松から各国の各地、他の地域からもローカルtoローカルズを横展開できるような未来を作っていきたい。