経産省を休職してパリの名門ビジネススクールで学び、名古屋スズサンへ 「日本の職人技を海外市場で横展開する」未来を描く 井上彩花
世界で日本の職人技が注目される理由
WWD:フランス(の企業)にとって日本の職人技の何が価値創出の源になっているのか?工芸的なモノ作りにおける超絶技巧は他国にもあるが、なぜ日本にも注目しているのか?
井上:日本の職人技はビジネススクールでもたびたび例に挙がった。フランスで日本の職人技が評価されている点は、細かいところまで妥協がない点や品質を追求する姿勢、職人らしさを強調されていた。手仕事によるモノ作りが多くの産地に残っている。こういった真正性のあるモノ作りは、フランス、ヨーロッパで高く評価されていると思う。欧州では2000年前後に職人の手仕事の存続が危機的状況となり、「シャネル(CHANEL)」が複数の工房を傘下にして2002年からメティエダール・コレクションを始めるなど、ラグジュアリーブランドが主体となった職人への投資、育成が今も行われている。
WWD:日本の産地の多くは経済的課題に直面しており海外企業との連携は重要だといえる一方、寡占状態に陥るのは危険(提携解消により廃業に陥るなど、産地の自律性が失われかねない)だともいえる。寡占状態をかわすためにどのような対策がありうると考えられるのか?産地で生きる人の自律性をどのように維持することが望ましいのか?
井上:スズサンの例を挙げながら、規模が異なると状況が異なることは前提として紹介したい。ベースとして海外企業との連携は大切だと思う。技術革新のきっかけや、組織の意識改革、新規市場開拓、知見を広げるためにも新しい人と付き合うことは大切。新しいことに常に取り組み、現代性を意識しながら変わり続けることが大切だと学んだ。そのうえで依存しすぎないという意味では、狙うマーケットでビジネスパートナーを複数持つことが対策になる。スズサンは世界30カ国、80都市、120の店舗と取引をしている。似た価値基準の友達を増やす感覚に近いと感じていて、それがスズサンの共感する姿勢の一つ。得られることの一つの学びは深い付き合いの中で、濃度も密度も高いものになる。