「メタノールで妻殺害」初公判 「第一三共」元エリート研究員は無罪主張 家庭内は「不倫」「風俗通い」で修羅場だった…妻は夫に「臭い」と消臭スプレー
「私は妻に殺意を抱いたこともないし、妻にメタノールを摂取させたこともありません」。証言台に立った被告の元大手製薬会社エリート研究員はこう無罪を訴えた。家庭内で起きた妻のメタノール中毒死は夫による「殺人」だったのか、それとも「自殺」だったのかーー。初公判では検察側、弁護側双方が「風俗」「不倫」といった言葉で応酬。事件前、夫婦仲が深刻な状態に陥っていた様子が浮かび上がった。 【写真13枚】亡くなった妻の容子さんと同様の毒殺事件として今年注目を集めた「浅草エチレングリコール毒殺事件」の容疑者夫妻 ***
逮捕時から一貫して容疑を否認していた
事件が起きたのは2022年1月。東京都・大田区のマンションから119番通報が入った。救急隊員が駆けつけると製薬会社「第一三共」元社員の吉田佳右被告(42)の自宅で妻・容子さん(当時40)が倒れているのが見つかった。通報したのは吉田被告だった。容子さんはすぐに病院に搬送されたが、その後死亡が確認された。 いったんは死因不詳の病死と扱われたが、行政解剖を実施すると遺体からメタノールが検出された。警視庁は吉田被告が職場からメタノールを持ち出し、妻になんらかの方法で摂取させたとみて捜査を開始。同年9月16日、殺人容疑で同被告を逮捕した。 密室内で起きた事件で映像や証言などの決定的な証拠はなかった。同居していたのは小学生の息子一人。吉田被告は逮捕時から一貫して「自分はやっていない」と容疑を否認していた。 吉田容疑者は北海道大学薬学部を卒業後、第一三共に入社。入社後、千葉大学やアメリカの大学に留学経験があるエリート研究員だった。容子さんも神戸大学農学部を卒業後、京都大大学院で修士号を取得した才媛。元々は同社の社員で2人は同期入社だった。
妻が苦しむ最中、風俗嬢にLINEを送っていた吉田被告
逮捕から2年経った9月2日、東京地方裁判所で開かれた裁判員裁判の初公判。吉田被告はグレーのスーツに青のネクタイをして法廷に現れた。逮捕時と髪型は変わらず、長い前髪が目の辺りまでかかっていた。 検察官が起訴事実を読み上げた後、証言台に立った吉田被告はきっぱりこう述べた。 「すべてが間違っています。私は妻に殺意を抱いたこともないし、妻にメタノールを摂取させたこともありません」 「私はすべて正直に答えてきました。何一つ嘘をついていません」 弁護人も「容子さんは自分でメタノールを摂取して亡くなった」と無罪を主張した。 検察側は冒頭陳述で、容子さんに募らせた憎しみが殺害動機になったと訴えた。容子さんは吉田被告が風俗店に通うことや生活費を出さないことに、吉田被告は容子さんの喫煙癖や浪費癖に不満を持ち、家庭内別居状態に陥っていたと述べた。 一家は2018年から2年間、吉田被告の留学でアメリカ生活を送ったが、帰国後も吉田被告の風俗店通いは続き、A子という風俗嬢に入れ込むようになったという。そんな吉田被告を容子さんは「気持ち悪い」「梅毒」となじりながら携帯で撮影・録音。さらに子供のいる前で消臭スプレーをかけ、家から閉め出したり、息子と会話するのを邪魔することが度々あったと述べた。 そして事件前日の1月13日、吉田被告が勤務する会社の研究室に2リットルの高濃度のメタノールが持ち込まれていたと明かした。それを吉田被告が自宅に持ち込み、14日夜から翌日未明にかけて、容子さんが日頃から飲んでいた紙パックの焼酎に混入させて摂取させたと推定した。 16日午前7時40分に吉田被告が119番するまでの1日以上の間、容子さんは嘔吐したり、自室で服を脱いで失禁したり、水風呂に入浴。またうめき声をあげてベットから落ちたりしながら中毒症状に苦しんでいたが、放置し続けたとも主張した。この間、吉田被告がA子にLINEを送っていたことも明かした。