『ゴールデンカムイ』から見る、アイヌ民族の衣服文化の世界
5巻カバー下イラストに登場している「チェㇷ゚ウㇽ」は、サケやマスなどの皮で作った服です。 現在まで残っているのは樺太アイヌのもので、数は少ないですが、国立民族学博物館などに収蔵されています。
7巻カバー下イラストに登場する「ウㇽ」はアザラシの毛皮で作られた服です。チェㇷ゚ウㇽよりも現存するものが少なく、国内では早稲田大学 會津八一記念博物館に所蔵されています。
また、10巻カバー下イラストの「チカㇷ゚ウㇽ」は、羽根が付いたままの海鳥の皮を何十枚も縫い合わせて作られたもので、千島アイヌが着用していました。 現存する実物は極めて少なく、その希少性から一般公開される機会は限られています。実物は徳島県立鳥居龍蔵記念博物館と、北海道大学植物園内の北方民族資料室に収蔵されています。後者では複製品を見ることができます。
17巻カバー下イラストの「ポクト」は、サハリン(樺太)の先住民族ウイルタの伝統的な衣服です。写真は戦前の樺太で収集されたものです。終戦後、ウイルタやニヴフの人々の一部は北海道へ移住し、網走市にも居住していました。 2007年にウイルタ民族の北川アイ子さんが逝去され、以降、日本ではウイルタのアイデンティティを表明している方はいないと思います。
ーアイヌ民族の衣服文化の継承という観点から、アットゥㇱをはじめとする伝統的な衣装の今後についてお聞かせいただけますでしょうか。 アイヌ民族の伝統的な衣服は、明治以降の同化政策などにより、ほとんど制作されない時期がありました。 1980年頃から、文化復興に伴い、儀式や舞踊などのための晴れ着が作られるようになりました。それらをアレンジしたバッグや壁掛けなどの小物が、工芸品として販売されています。 アットゥㇱについては、平取町の二風谷アットゥㇱと二風谷イタ(木盆)が2013年に経済産業省の「伝統的工芸品」として、北海道で初めて指定されました。 この指定により、国有林や道有林からオヒョウ樹皮の安定的な確保が図られるようになりました。現在ではアットゥㇱの制作講座が開催されるなど、二風谷を中心として、他地域へも伝統技術の継承が広がりつつあります。 このように、アイヌ民族の伝統的な衣服文化は、新たな時代の中で着実に受け継がれ、その価値が再認識されています。この貴重な文化遺産を守り、次世代へと伝えていくために、博物館や研究者に何ができるかこれからも考え続けていきます。