『ゴールデンカムイ』から見る、アイヌ民族の衣服文化の世界
博物館ではさまざまな衣服を見ることができる
ー『ゴールデンカムイ』では、アシㇼパ以外にもたくさんのアイヌ民族が登場します。そのうちのひとりであるキロランケが着ているのが「カパラミㇷ゚」ですが、これはどういう服なのでしょうか?
(北海道の中央南部に位置する)日高地方などでカパラミㇷ゚と呼ばれるのは、木綿地の上に、白くて大きな布を切り抜いてアップリケのように縫い付けて、文様とした服です。 アイヌの衣服のなかでは比較的新しく、まさに作品の舞台になっている明治末に出てきた服ですね。地域による違いはありますが、日高地方をはじめ、現在は儀式や舞踊などのときに、このカパラミㇷ゚を着る人は多いです。
ー続いては、インカㇻマッという占いをする女性。彼女は、アシㇼパの父からもらった「チンチリ」という服を着ています。
インカㇻマッの服は、(作品の設定に合わせて)樺太アイヌの文様が描かれていますね。 北海道の太平洋側などでチンチリ、チヂリと呼ばれてきたものです。古くからある服と考えられ、刺繍だけで文様をつけています。 刺繍する面積が大きいので、現代の作り手はチヂリが一番大変だと言います。 ーインカㇻマッを含め、作中に登場するアイヌの服を見ていると男女で大きな差がないように感じます。 その通りで、アイヌの服には男女の差がありません。 個人の好みやサイズの違いはあったでしょうが、「男性はズボン、女性はスカート」といった性別による様式や文様の違いは顕著ではありませんでした。
ー作中には、メインキャラクターの服以外にも先住民族の服が多く登場します。その中から、特に気になったものを選んだので、解説してもらえますか。
漫画の4巻カバー下に登場する「ルウンペ」は、(北海道南西部にあたる)胆振地方で「ル(道)ウン(ある、持つ)ペ(もの)」と呼ばれる衣服です。テープ状に裁断した布を、伸ばしたり折り曲げたりしながら着物に縫い付け、その上から刺繍を施して制作します。 4巻カバー下に描写されているのは、釧路市立博物館が所蔵する、貴重な衣服をモデルにしたものと思います。酷似した衣服がロシアに2点存在しており、同一人物の手によるのではと推測されるほどです。 これらは現存するアイヌの衣服の中では最古級とされ、ロシアの博物館にある2点の収蔵時期は18世紀です。