「現実はそんなに甘くない」手越祐也が独立して気づいたアイドルという“魔法”
うさぎ年は「飛躍の年」とされる。年始に渡辺謙さんや堺雅人さんが長年在籍した事務所から独立したことが話題となったが、この数年、芸能界の事務所移籍や独立は増加傾向にある。しかしそれは夢がある一方で、当然リスクも伴う。「アイドルという"魔法"が解けて、ひとりになった」と語る手越祐也さんは、独立後さまざまなことに挑戦し、壁にぶち当たるなか、ある内面の変化に気づいたという。(ジャーナリスト・中村竜太郎/Yahoo!ニュース Voice編集部)
“魔法”が解けた今、より深い心のつながりを感じるように
――独立して2年が経ちましたが、振り返ってみてどう感じますか? 手越祐也: 大きな組織や会社にいるのと個人で独立してやっていくのは、必要なスキルが違うし大変さの種類も違いますけど、組織にいたほうが圧倒的に楽だとは思います。 事務所にいる頃はドラマやバラエティの仕事が自動的に決まっていたし、スケジュールもマネージャーがやってくれ、コンサートをやるにしてもすでに会場は押さえられていて、現場でパフォーマンスに集中すればよかった。けれど個人だと、当然ですが、全部自分でやる。人脈を使って仕事を見つけてくるのも自分、その仕事を精査するのも自分。マネージメントも手越祐也というブランドづくりも、すべてやらなきゃいけないのが基本です。 大きな組織にはもとから固定のファンがついていますが、組織から出ただけで個人についてきてくれなくなる人もいます。芸能の仕事は人気に左右されるわけだから、それは仕方のないことかもしれないけれど、当初は、「ああ、僕のことを好きじゃなかったのか」っていう気持ちにおちいりました。環境が変わったとしても、僕自身は変わらないんですけど。そして僕は、自分がやめても全員がついてきてくれると思っていたんですが、大きな勘違いでした。やっぱり多くの人は、アイドルや事務所という“魔法”にかかっているんです。僕は「ダメなのかあ」と落胆しましたね。また、当初考えていたプランも、コロナの影響があったりして、自分の理想どおりにはまったくいかない。現実は、そんなに甘くなかった。 けれど、ひとりになった僕についてきてくれる人もたくさんいて、また、あらたに応援してくれる人もいます。大げさな言い方になるかもしれないけど、僕の人間性や生き方に共感してくれている。そう思うと、頑張れば頑張っただけ正当な評価をしてもらえるんだなということがわかりました。自分を取り巻く環境の変化を経験したことで、応援してくれる方に対して、以前にもまして感謝するようになったことはすごく大きい。なんて言えばいいのかな、より深い心のつながりを感じますね。 ――独立して大変だなと思うことは? 手越祐也: みんなが思っている以上に、「独立って大変です」って伝えたいです。「このままじゃダメだ」とやめる決心をして、友人知人に相談し、独立後のシミュレーションをし、いろんな困難があるだろうと覚悟はしていましたが、テレビに出なくなったら、ネットで「手越いなくなった」とからかわれる。独立して背負うものが大きくなり、以前とは比べものにならないくらい忙しくなりましたけど、芸能以外にも農業やボランティアをやっているのに、知らない人からすれば、「あいつ、何やってんだ?」となっちゃう。 けれど、それはそれ。自分の選んだ道です。仕事をして、結果を出して、その評価で認めてもらうしかない。そして当然、結果が出ないと次につながっていかないですよね。サッカーっぽい表現になりますが、やっぱり1戦1戦が勝負。だから「もっともっと頑張れ!」と自分にいつも檄を飛ばしています。 ――最近独立する芸能人は増えていますし、芸能人以外でもフリーランスになる人も多いですね。 手越祐也: 僕は人が持っている夢とかやりたいことっていうのは、失敗してもやるべきだと思っています。実は僕の父親は、体調を崩した翌日に突然亡くなりました。そのとき思ったのは人間いつ死ぬかわからないし、何があるかわからないということ。だったら、自分のやりたいことは、生きているうちにやってみるべきだと。その考えは、僕の独立の決心にもつながっています。 ただ、リスクをちゃんと調べ、できる限りの準備をしたうえでチャレンジする。最近は若くして起業する人が増えていますが、独立も、野心や情熱がある若い時期ほどいいんじゃないかな。僕が事務所を辞めたのは32歳でしたけど、40歳になったときそのパワーがあるかといったら、わからない。一般的に考えても人生の前半のほうが失敗したときの取り返しはつけやすいと思うので、早めにチャレンジしたほうがいいと思いますね。そこで得た経験や苦労は自分の財産になりますし、僕自身それを痛感しています。