喜んで買っていただくコツ 守り続ける先輩に学んだ「最初の挨拶」と「最後の押し」 話の肖像画 夢グループ創業者・石田重廣<2>
《売り上げ1億円を超えるヒット商品が50点以上にものぼる〝通販の達人〟だ。買ってもらうことで大事なのは、相手との「タイミング」という》 社会人になって最初は、百科事典や地球儀などを訪問販売する会社で働いていました。入社直後は先輩について回って、セールスのコツを覚えるんです。マニュアルもない時代でどう売ればいいか、皆目見当がつきませんから。幸いだったのは、僕の担当が月100万円以上も売り上げる優秀な先輩だったんです。 で、この先輩から何を教わったか。「いいか、石田。マンションは上の階から回るんだぞ」と、まずは訪問の順序です。いぶかる僕に「いいか。音というものは上に響く。1階で商談したら、2階の人は『セールスマンが来ているな』と警戒し、会ってくれなくなるぞ」と。 そういうもんなんだと感心していたら、今度は「玄関でピンポンと呼び鈴を鳴らしたらダメだ。ドアをドンドンと強くたたくのもダメだぞ」と言う。「訪問販売なのになんで?」ってなりますよね。でも先輩は「聞こえるか、聞こえないかくらいで優しくドアをたたき、『誰? 何?』って開いた瞬間が大事なんだぞ」と言うんです。 で、「ドアが開いたそのタイミングで、『○○さん、こんにちは』と語りかけろ。名前はちゃんと表札で確認しとくんだぞ」と。相手の警戒心をかいくぐって、家に上げてもらうテクニックです。大事なのは相手の心が自分に傾いたタイミングを逃さないことだ、と。成績はトップなのに、何でも教えてくれる優しい先輩でした。 《家の中でのやりとりでも》 家に上がってからについても、この先輩の教えは続きます。「いいか、石田。お前には福島訛(なまり)があって商品の説明には不向きだ。説明で勝負してもダメだぞ」。「どういうことなんですか」となりますよね。そうしたら同じマンションを回っていた別の先輩を指さし、「いいか。あいつは説明がものすごく上手なんだ。でもいつも売れずに帰ってくる。よく見てろ」と言う。2人でしばらく待っていたら、その別の先輩はやはり商品を売れずに家から出てきた。 そしたら先輩が「じゃあ俺、行ってくるから」と、その家に向かうではないですか。「さっき断られたばかりで無理ですよ」と止めたのですが、先輩は「まあ行ってみる」と。ほどなくして先輩は商品を売ってきた。目を疑いましたね。