国の史跡で世界遺産にも登録される萩城跡

世界遺産に登録された山口県・萩の城下町。幕末から明治にかけて活躍した志士らを育んだ町並みを散策しながら、近代日本の産業化の芽生えを感じ取る。

古地図で散策できる萩の城下町

「高杉晋作誕生地」などがある旧町人地の菊屋横丁

江戸時代、長州藩（萩藩）の城下町として栄えた山口県萩市。長州藩は幕末に薩摩藩（現・鹿児島県）と薩長（さっちょう）同盟（1866年）を結び、討幕運動を大きく前進させた藩だ。明治維新後は、長州出身者が政府の要職を握り、日本の近代化を推し進めた。萩が「明治維新胎動の地」とも呼ばれるゆえんである。 一方、幕末の最終期に長州藩は、萩から山口へと藩庁を移したこともあり、往時の町並みが保存されている。城下町に足を踏み入れると、土塀やしっくいの白壁が残り、町割もほぼ江戸時代のまま。まるでタイムスリップをした気分になる「古地図で歩ける町」として、歴史ファンに人気の観光地だ。

明倫学舎の1号館は国登録有形文化財

観光の起点となる「萩・明倫学舎」は、旧藩校・明倫館の跡地にあった小学校を改修して2017年にオープン。幕末ミュージアムなどの展示施設や、世界遺産ビジターセンターが入居する。

旧明倫館の剣術場と槍術（そうじゅつ）場だった「有備館」（国指定史跡）も保存されている

城下町を含む市内の5つの史跡は2015年、「明治日本の産業革命遺産」としてユネスコの世界文化遺産に登録された。それらを巡りながら、萩の見どころと幕末の産業化の一端を紹介したい。

（1）萩城下町

天守跡から指月山と堀を望む

萩の城下町は、阿武川の河口部の三角州にある。世界遺産には「城跡」「旧上級武家地」「旧町人地」の3地区を合わせ、「萩城下町」として構成資産に登録されている。 萩城は三角州の北西端、日本海に突き出た指月山（しづきやま、標高143メートル）にあったために「指月城」とも呼ばれた。本丸は三方を海に囲まれ、山を背負う形だったので、天然の要塞（ようさい）といえる。

長州藩の永代家老を務めた「旧福原家萩屋敷門」。（県指定文化財）

城の南東に広がる旧上級武家地は三の丸に当たり、藩の政治・行政の中心地だった。 大きな門構えの重臣の屋敷が並び、川沿いには高い土塀で左右を囲み、道を鍵の手に曲げた「鍵曲（かいまがり）」が2カ所残っている。見通しを悪くすることで、敵の侵入を遅らせ、防御しやすくするためのもので、戦国の世の名残を感じさせる。この地区には日本最大の高麗（こうらい）門「北の総門」や萩博物館など、見どころが多い。