巨人復帰初先発で642日ぶり白星の山口俊は阪神追撃の救世主となれるのか?
原監督は6回にも球数が84球に達していた山口をマウンドに送りだした。体力自慢の山口も緊張と慣れない地方球場のマウンドに疲労も限界に近づいていた。一死から佐野にセンター前ヒットを打たれ、オースティン、宮崎に連続四球。一死満塁の最大のピンチを背負う。 山口はルーキーの牧に最も自信のあるフォークを使う。本塁封殺のボテボテの三塁ゴロ。二死となり、代打・楠本がコールされたところで、原監督が左腕の大江への交代を告げた。 2点差…。まだ対巨人に白星がない三浦監督も勝負手に打って出る。代打の代打にスタメンを外れていたソト。大江はカウント1-2と追い込んでから外を攻めてハーフスイングを誘い三振を奪った。 「大江が、厳しいところでしっかり抑えてくれた。ベンチに戻って“ありがとう”と声をかけたい」 ベンチの最前列で見守った山口は、勝利投手の権利を守ってくれた大江にそう感謝した。 復帰初戦を1失点の好投で凱旋白星を手にした。メジャーからの国内復帰の初戦で勝ったのは、2015年3月29日、ヤクルト戦での広島・黒田博樹氏以来の快挙である。この日は2年前にいつもバッテリーを組んでいた小林とのコンビだった。ストレートが約41%、フォークが約32%、スライダーが約18%という配球の割合。勝負どころではフォークを多用していた。何本かいい当たりが正面をついた。力でねじ伏せたというより打ち損じを誘った技巧派ピッチングだった。 果たして山口は巨人の逆転Vの救世主となれるのか? 現役時代に阪神、ダイエー、ヤクルトで活躍した評論家の池田親興氏は、「十分合格点を与えることのできるピッチングだったと思う」と評価した。 「二軍で試運転もせずにぶっつけ本番。2年ぶりのNPBのマウンドでかなりの緊張があったと思う。確かにフォームのバランスを保てず、ストレートの質、フォークのキレ、回転などにバラつきはあったが、投げながらうまく修正していた。大きく崩れず彼の持ち味である馬力も感じさせてくれた。菅野が不安定で先発、ブルペン共に苦しいジャイアンツの現状を考えると間違いなくプラス戦力になると思う。今後、登板回数が増えるごとに安定感が出てくるのではないか」 山口は5日に帰国、新型コロナの感染予防の隔離期間を経て、20日に2軍に合流したばかりだった。シート打撃に登板しただけで、自ら“ぶっつけ本番“を志願し、この日のマウンドに立った。 FAで巨人に移籍しながら2019年オフにポスティングでブルージェイズへ移籍。中継ぎ起用されたが、メジャーの公式球に適応するのに時間がかかった。今季は開幕前に“戦力外”とされジャイアンツ傘下の3Aでメジャー昇格のチャンスを待ったが、思ったような結果が出ずに日本球界復帰を決断した。 「まだまだこれからが本当の勝負になってくると思うんでチームが1勝でも多く勝てるようにこれからも頑張っていきます」 復帰初登板の肉体的な影響がなければ次回登板は30日の広島戦。4連勝で阪神とのゲーム差を「5」にした巨人にとって頼もしい追撃の新戦力が加わった。 インタビューの最後に「久々のスタンドからの拍手をどういった気持ちで聞いていたのですか?」と聞かれた山口は、「もっとヤジが多いのかなと思ったんですけど、すごく暖かい応援ありがとうございます」と、巨人ファンと元在籍球団だった横浜DeNAファンの両方に笑いを提供して、スタンドに手をふった。