ノーベル文学賞ハン・ガンさん、今から読みたい書店員オススメの7冊
2024年ノーベル文学賞を受賞した韓国の作家ハン・ガンさん。代表作『菜食主義者』『少年が来る』を始め、日本でも多くの著作が翻訳出版されています。11月23・24日に東京・神保町で開かれる韓国文学のお祭り「K-BOOKフェスティバル」と、全国の書店で開かれる「K-BOOKフェア」を前に、参加する書店の店員たちが、この機会に読みたいハン・ガンさんの著作を紹介します。
そっと 静かに
いまのところ日本語で読める唯一のエッセイ集 人類全員に存在を知らせたい本がある。特に、あなた。これからハン・ガンの小説を買おうとしてるあなた。過去にハン・ガンの小説を読み通せなかった経験があるあなた。あなたに、いまこの本と出会ってほしい。 その本の名は『そっと 静かに』。表紙に描かれた扉は、この先あなたが必要とする時に何度でも一番やさしい迎えをよこしてくれるだろう。これはハン・ガンの音楽への思慕を綴ったエッセイ集だ。1章は音楽と記憶、2章は思い出にまつわる歌、3章は自作の歌について。巻末のQRコードを読み込めばハン・ガン自身による詩二篇と小説『少年が来る』の朗読、自作の歌まで聞ける。 ハン・ガンの小説があなたが青空だと信じていた膜を切り裂く時、そこからあなたの血が流れてきてしまう。読み進められない時はそっと閉じてもいい。きっとまたひらく時が来るから。その時までずっと、それ以降もずっと、あなたを抱きとめ祝福し一緒にいてくれる存在。それがこの本なのだ。(本屋itoito・横)
菜食主義者
「世界のハン・ガン」の契機となった代表作 「夢を見たの」。そう言ってある日突然、肉食を拒否し、ついには食べる行為そのものを拒否するようになってしまう主人公のヨンヘ。彼女の精神が蝕ばれていく過程がヨンヘの夫、義兄、姉のインヘの3人によって語られる。ヨンヘが肉食を拒否するのは「菜食主義者」になるのだという信念からではなく本能的なものであり、奇妙な行動を始めたヨンヘと家族との関係も壊れていく。それらの原因は一見、夫の心ない言動や家父長的な父、一方的な愛情を押し付ける母といった「他人からの暴力」のようにも思えるが、根源にあるのは社会のひずみがヨンヘの心に植えつけたトラウマであり、木になったと自覚したヨンヘもまた、自らが内包する暴力性に気づく。奇怪で、ともすれば不快に受け止められがちな内容が著者固有の文体で美しく迫ってくる連作小説。2016年に国際ブッカー賞を受賞し、ノーベル文学賞への道を開くきっかけとなった象徴的な作品でもある。(CHEKCCORI・清水知佐子)