ノーベル文学賞ハン・ガンさん、今から読みたい書店員オススメの7冊
すべての、白いものたちの
「白」とともにあるもの まずは私とハン・ガン氏との出会いから説明したい。ここでいう「出会い」というのは「ハン・ガン著作との出会い」という比喩的表現ではない。今年3月、私は初めての韓国旅行を体験した。そこでなんとハン・ガン氏本人と直接対面したのだ。初めて会う大作家先生はとても温和で優しげで、でもどこか物悲しい雰囲気を纏った方だった。ハン・ガン氏と記念すべき初対面を果たした場所は「本屋オヌル」。小さな素敵な本屋さん。そこで私は『すべての、白いものたちの』を購入した。店番をしていた若いスタッフに「ハン・ガン初心者におすすめの本は?」と尋ねたところ、悩みあぐねた末にこの本を薦めてくれたのだった。もちろん原書では読めないので(いつかは読みたい)、邦訳版で読了。読後は放心。いや、いろいろな思いが渦巻いてはいたけれど、まるで取り留めがなかった。この本は「白い」ものを書いた本。でもそれは真っ白ではない白だ。こんなにも繊細で、温かくて、痛ましい文章を私は初めて体験した。生きること、そして死ぬことはどういうことなのだろう。私もハン・ガン氏と同じく頭痛持ちなのだが、ずきずきと痛むたび「生」を感じる。そしてまたこの本を開く。ハン・ガン氏の悲しみを湛えた目を思いうかべる。現代人はみんな漠然と「死にたい」なんて言うけれど。ずっと私は考えている。まだ答えは出ない。(東山堂川徳店・髙橋由莉和)
別れを告げない
痛みの中の究極の愛 あなたには大切な人がいる。その人は、あなたのもとから奪われてしまった。その人がどこにいるのかわからない。その人がどうなってしまったのかわからない。そんな時に、あなたはどうするだろうか。 ハン・ガンは、あとがきでこう書いている。「この本が、究極の愛についての小説であることを願う」。究極の愛。それはきっと、死んだと思ってあきらめようと言われても、あきらめずにその人を探し続けること。その人の巻き込まれた恐ろしい出来事がなかったことにされようとも、確かに起こったことを語り続けること。その人を忘れないこと。思い出し続けること。 作中で、登場人物が事故で指を切断してしまい、縫合痕に針を突き刺すシーンがある。出血と痛みが続かなければ、神経が死に、繋げた指が腐ってしまうため、針を刺し続けなければならないのだという。大切な人を探し続け、語り続け、思い出し続けることはきっと、癒えない傷に針を刺すことに等しい。血を流しながら、痛みを覚えながら、それでも針を刺し続けることに、等しい。 別れを告げない。 それは、あなたを忘れてしまうよりも、苦しみながらもあなたを想い続けるという、決意の言葉だ。究極の愛は痛みの中にある。そこではもはや、生きていようと死んでいようと、わたしたちは一緒にいる。(梅田 蔦屋書店・河出真美)