真面目な人ほどこだわる「塩分控えめ」実は無意味だった…減塩よりも「健康になれる」究極のシンプル習慣
■過度な減塩は味覚・聴覚障害につながる 減塩には限界やリスクがあることも指摘しておきましょう。現代では何かと悪者扱いされる塩分ですが、塩分に含まれるナトリウムは、人間が生きていくために非常に重要な働きをしています。ですから人間の体には常に一定のナトリウムが備蓄されるようになっているのです。 例えば体重60kgの人なら、200g程度の塩分が体内に蓄えられています。骨と血液の中にそれだけ溶け込んでいるということです。ですから血液は塩辛い。減塩したとしても、食事から入ってくる微量の塩分が、常に体内に蓄積されていきます。それだけの量を体内に蓄えているため、いくら頑張って減塩をしたとしても、体内の備蓄を使い切ることはまずありません。 むしろ過度に減塩を意識した食事は、栄養が偏り、ナトリウム以外のマグネシウムやカリウムといったミネラル分が不足してしまうリスクが高くなります。ミネラル不足は健康を害する大きな要因になります。ミネラルは互いに助け合いながら働いていますので、そのバランスが崩れると味覚や嗅覚、聴覚が働かなくなったり、メンタルが不調になったり、頭痛が引き起こされたりしやすいのです。こうしたことから、減塩をしすぎるとかえって体調を崩すリスクがあります。 では、減塩に血圧を下げる効果があまりないとしたら、私たちは何をすればいいのでしょうか。 まずとりかかるべきは肥満の解消です。肥満の人は高血圧の発症率が2倍高いという統計もあります。ちなみに肥満とは、BMIが25以上の人です。 肥満解消のためには、食事制限も大切ですが、運動で内臓脂肪を落とすのが最も効果的です。内臓脂肪が落ちなければ減量は進みません。そこでまず内臓脂肪を運動で燃やす。そして内臓脂肪を効果的に落とすには有酸素運動が最も有効です。 有酸素運動とは、早歩きする、走る、自転車に乗る、泳ぐなど、酸素を取り込みながら行う運動です。目安は1日30分、週5日以上。この30分は細切(こまぎ)れでも効果があります。通勤で1~2駅分早歩きするとか、エスカレーターではなく階段を利用するなど、日々の隙間時間を利用して運動することを心がけましょう。 ちなみにウオーキングはのんびり歩いてはダメです。酸素を取り込む必要がありますから、早歩きをしてください。運動の強さの目安としては、知り合いとすれ違うときにかろうじて笑顔を浮かべて「こんにちは」と言えるぐらいのペース。これを「ニコニコペース」と言います。 一つ付け加えておきたいのは、筋トレでは内臓脂肪は落ちないということ。お腹の奥深くにある内臓の脂肪は、腹筋運動をしても落ちません。 そのほか、ストレスや睡眠不足も高血圧のもとです。毎日しっかり睡眠をとり、ストレスのかからない日々を送ってください。仕事でストレスを抱え、遅い時間までお酒を飲む人は、睡眠不足になりがちです。さらにタバコも血圧を上げてしまうので、喫煙者はこの際、きっぱりとタバコをやめることをおすすめします。 このように、血圧を気にするなら、過度な減塩より有酸素運動を取り入れたり、健康的な生活を送ったりすることが重要です。 ※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年12月13日号)の一部を再編集したものです。 ---------- 奥田 昌子(おくだ・まさこ) 内科医 京都大学大学院医学研究科修了。京都大学博士(医学)。医学部卒業後、博士課程に進み基礎研究に従事。生命とは何か、健康とは何かを考えるなかで予防医学の理念にひかれ、健診ならびに人間ドック実施機関で30万人近くの診察/診療にあたる。海外医学文献と医学書の翻訳もおこなってきた。現在は産業医を兼務し、ストレス対応を含む総合診療を続けている。愛知県出身。著書に『欧米人とはこんなに違った日本人の「体質」』『日本人の「遺伝子」からみた病気になりにくい体質のつくりかた』(ともに講談社ブルーバックス)、『内臓脂肪を最速で落とす』(幻冬舎新書)、『日本人の病気と食の歴史』(ベスト新書)など多数。 ----------
内科医 奥田 昌子 構成=大島七々三