真面目な人ほどこだわる「塩分控えめ」実は無意味だった…減塩よりも「健康になれる」究極のシンプル習慣
■なぜ日本人は減塩が大好きなのか 「塩分を減らせば血圧は下がる」。長い間、日本ではこれが定説になっていました。ところが、最近の海外の研究で、「減塩には大して血圧を抑える効果がない」ことがわかっています。 【図表】運動で血圧を下げるときの5カ条 これはアメリカの研究者による調査研究で明らかになったことです。高血圧の人を3つのグループに分け、一定期間、Aグループには「減塩」をしてもらう、Bグループには「減量」をしてもらう、Cグループには軽い「運動」をしてもらう、といった実験をしたところ、どのグループの結果も大して変わりがなかったのです。 しかもA「減塩」は、塩分を通常の半分程度にするという過酷なものでしたが、B「減量」は4キロの減量、C「運動」は軽いものでした。この結果がすべてとは言いませんが、それまで言われてきたほどには減塩に血圧を抑える効果はなく、減塩より減量や運動のほうが、効率よく血圧を下げられることがわかったのです。 そもそも、なぜ日本では「高血圧には減塩」という常識が出来上がったのでしょうか。 きっかけは1961年に米国のブルックヘブン国立研究所のルイス・ダールという研究者が行った疫学調査でした。その調査によって食塩摂取量と高血圧の発症率に相関があることを示唆(しさ)した論文が発表されたのです。 その研究チームでは世界各地の人たちの塩分の摂取量と平均の血圧を調査して比較した結果、「塩分を多量にとっている地域の人ほど血圧が高い」との結論を導いたのです。この論文は大変センセーショナルに受け止められ、米国で減塩ブームが起こり、やがて世界に広がっていきました。
特に、日本では60年代に脳卒中の発症率が世界で一番高いという調査結果を受けていたことから、高い関心が寄せられました。なぜかというと、当時脳卒中の7~8割は高血圧による脳出血だったからです。この論文の内容によって、「塩分のとりすぎ」⇒「高血圧」⇒「脳卒中」という図式が作られてしまったのです。 それから日本では国を挙げての減塩キャンペーンが行われました。特に、食料の保存のため野菜を塩漬けにして食べる習慣のある東北の人たち、とりわけ食塩摂取量の多かった秋田県や、長野県などで減塩運動が行われました。 当時の印象が国民に深く浸透し、「高血圧には減塩」という定説が出来上がったと考えられます。 ■そもそも日本人の8割は塩分だけなら影響ない 全国的な減塩キャンペーンの影響でその後、日本人の塩分摂取量も半分近くまで減り、地域差もなくなりました。ところが後になってから、ルイス・ダールの論文は条件があいまいで、医学研究としては十分に信頼できるものではない、ということがわかってきたのです。 というのもこの研究結果では、例えば日本では夏が高温多湿で入浴の習慣もあることから、欧米の人の暮らしと比べて汗をかく量が違うなど、各国の気候風土や生活習慣が考慮されず、数値の単純比較でしかなかったからです。 そこで、冒頭で紹介した研究結果のように、あらためて塩分と血圧の関係を調べる研究が進められる中で、「減塩が血圧を下げるというはっきりとした効果は認められない」という結論にいたったのです。 さらに、その後の研究によって、塩分と血圧の関係には遺伝子が関係することがわかってきました。そこで「食塩感受性」という概念が提唱されるようになったのです。食塩感受性とは、人が塩分を摂取したときにどれだけ血圧が上がるかを表す言葉で、塩分をとると血圧が上がりやすい状態を「食塩感受性が高い」と表現します。その食塩感受性は遺伝子で決まる、つまり個人差があるということがわかってきました。 傾向として男性より女性のほうが食塩感受性が高いこと、人種によっても差があることもわかってきました。例えばアフリカ系の人種の人たちは食塩感受性が高く、日本を含めたアジア系は中くらい、欧米人は低いのです。 では日本で食塩感受性の高い人はどれくらいの割合かというと、20%程度です。残りの約8割は、塩分だけでは血圧に影響しない体質の持ち主であるということです。 ただし、塩分にタバコやアルコールなどの他の要素が加わると、血圧が上がる人が30%いることもわかりました。それでも日本人の50%は塩分をとりすぎても、血圧には影響しない体質なのです。こうしたことから、日本人にとって「減塩」の効果は限定的であることがわかってきています。 ただし、今は食塩感受性が低くても、安心はできません。もともと食塩感受性の低い人も、肥満や糖尿病、アルコール、睡眠不足、ストレス、高血圧、高齢などの条件が加わると、遺伝子にスイッチが入り食塩感受性が高まるからです。