トランプ氏「移民のせいで犯罪が増加している」→司会者「FBIによれば凶悪犯罪は減っている」→トランプ氏「FBIが間違ってる」→ハリス氏「必要なのは未来に向かって進むこと」…討論会を分析
━━移民問題ではどのような議論がされたのか? 「これはハリス氏にとって“最も触れられたくないテーマ”だ。というのも、ハリス氏は副大統領として国境や移民問題を担当したが、不法移民の数が3年連続で過去最多となり、対応が後手に回ったと批判されてきた経緯があったからだ。逆に、トランプ氏としては、不法移民の恐怖を煽り、ハリス氏の責任だと追及することで、討論の主導権を握りたい考えだった。だが蓋を開けて見ると“想定外”の議論となった」 「トランプ氏が『オハイオ州のある町で、不法移民が住民のペットの肉を食べている』と発言したところ、討論会を主催するABCテレビの司会者が『行政当局に確認したが、そのような証拠はない』と即座に指摘。また、トランプ氏が『何百万人の犯罪者を受け入れたことで、犯罪が増加している』と言ったところ、司会者が『FBIによれば凶悪犯罪は減っている』と指摘、これに対しトランプ氏は『FBIが間違っている。犯罪が最もひどい都市が含まれていないからだ』と反論した。だが、実際には犯罪率は減少している。ハリス氏は移民の犯罪を言い立てるトランプ氏に対して、刑事事件で起訴された人間が何を言うかとした上で、話題を逸らして、一番嫌な移民問題を切り抜けることに成功した」 「アメリカメディアによると、トランプ氏は90分の討論会の中で、虚偽の発言を11回したという。虚偽の発言は“いつものこと”だが、今回は司会者がその場で的確なファクトチェックを行った。トランプ氏は当惑したように見え、不愉快な表情を隠しきれない様子だった。トランプ氏は『司会者が不公平だった』と訴えているが、ハリス氏は“敵失”に救われたと言える」
━━次に「民主主義」。トランプ氏は4つの刑事事件で起訴され、有罪の評決も出ているがどのような議論がされたのか? 「裁判そのものは、トランプ氏の引き延ばし工作が功を奏して、大統領選前に裁判がこれ以上前に進むことはなくなったが、民主主義や裁判をめぐる問題は、争点の一つとなる。トランプ氏は、一連の起訴はバイデン政権が『司法省を武器として使って、選挙に勝とうとした。この国でかつてなかったことだ』と、自分は政治的な迫害を受けていると批判した。一方、ハリス氏は『トランプ氏は政敵の攻撃に司法省を利用すると公言している。政権に返り咲いたら何が起こるか理解して欲しい』と国民に訴えた。ハリス氏としては、自分は未来に向かって進むリーダーだと強調したい狙いもある」 ━━討論会において、ハリス氏に懸念事項はなかったのか? 「今回、国民の目から見て力量が試されたのは、ハリス氏だった。ハリス氏は1年に及ぶ大統領候補の指名レースを経験せず、7月になって突然、ピンチヒッターとして登場したため、国民からするとカマラ・ハリスとは何者なのか、人物像がちゃんと定まっていなかったのだ。知名度がないということはプラス、マイナス両面あり、討論会をうまく乗り切ったらプラスの“伸び代”はより大きいと言え、失敗すれば失望もより大きくなっていた。つまり、『ハイリスク・ハイリターン』だったのだ。ハリス氏は検察官出身。法廷で追及するかのように、トランプ氏を追い込むことができるか。5日前からホテルに合宿して、トランプ氏になりきった側近を相手に特訓を重ねたという」 「ハリス氏にはある“狙い”もあった。ハリス氏は『ページをめくる』という意味の“Turn the page”という言葉を繰り返し『新しい時代に向かって先に進みましょう』とアピールした。これは古い時代のトランプ氏とは違う、という意味に加えて81歳のバイデン大統領とも異なり、自分は新しい時代のリーダーである、世代交代を訴えるという印象を国民に与えようとした。結果、一定の成果を上げることができた。一方、トランプ氏は終了後に記者団の前に姿を現し、『これまでで最高の討論会だった』と訴えたが、討論では後手に回った印象を与えることになった」 ━━メディアはどう見た? 「CNNは『ハリス氏がほぼすべての話題で完封し、トランプ氏を黙らせた。今夜のトランプ氏は老けて見えた』、ニューヨーク・タイムズは『ハリス氏は検察官としてのキャリアを思い起こさせるような攻撃的なパフォーマンスを見せた。トランプの神経を逆撫でし、世代交代というテーマに何度も立ち返った』などと伝えている。保守系のFOXニュースも『トランプにとって悪い夜だった』『ハリス氏は十分に準備して落ち着いていた。トランプ氏は準備ができているようには見えなかった』と報じた。トランプ陣営としては、国民が不満を持つテーマで政策論争に持ち込んで、ハリス氏に追い風が吹いている流れを変えたいという思惑があったが、期待通りにはならなかったと言える」