彬子女王殿下が教える大学の授業とは レポートのホチキスの留め方から丁寧に指導
失敗は力になる
――とても面倒見の良い先生ですね。いまの学生はどのように見えますか。 簡単に正解を知りたがる傾向があることが気になります。検索すればすぐ答えが出る時代ですけれど、まずは自分で考えてほしい。遠回りかもしれませんが、一つの答えにたどり着く過程で思いもしなかった別の答えを見つけることもあります。その面白さを知ってほしいです。 一方で、私には思いもしないアイデアも持っていますね。先日はお菓子の八ツ橋の工場を訪ねましたが、ワークショップのときに「動画で生配信したい」とか、「生八ツ橋のアレンジレシピを考えたい」など斬新なアイデアが出てびっくりしました。 ――大学進学を目指す高校生たちに、進路選択のアドバイスはありますか。 高校生のうちに自分のやりたいことが定まっている人は少ないと思いますが、だからこそ「いま本当に好きなこと」を大切にしてほしいです。音楽でもスポーツでも、推し活でもいい。夢中になれるものが一つでもあれば、人生の中できっと役に立つと思います。 それから挑戦を恐れないでほしいです。「どうせ失敗するだろう」と思っても、安易にあきらめないでほしい。もし失敗しても、それは貴重な学びです。5年後、10年後に必ず役立つし、自分の強みにもなりますから。
父の応援に応えたいから踏みとどまれた
――大人も、「失敗しないように」と先回りしないほうがいいのかもしれないですね。親へのメッセージはありますか。 親心から「やめたほうがいいのでは」と言いたくなる気持ちもわかります。でも本当に無理なのか、何かできる方法はないのか、それを一緒に探してあげてほしいのです。 私の父(故寬仁親王)はそういう方でした。基本的には放任主義で、ああしろこうしろとは言われない方でしたが、私がやりたいと言ったことは、最大限のサポートをしてくださいました。留学中の本当につらい時期でも、「なんとか父にお返しできるものを残さなくては」という思いが、逃げたくなる心を押しとどめてくれました。 ――『赤と青のガウン』は、お父さまから「必ず留学記を書きなさい」と言われて書き始めたそうですね。 「成年皇族としての公務がある中、6年間もオックスフォードにいたのだから、国民の皆さまへのご報告になるようなものを書くように」と言われました。父のお言葉通り、多くの方に読んでいただけて、良い報告ができているかなと思っております。 ――お父さまがご存命であれば、何とお言葉をかけてくださるでしょうか。 父は負けず嫌いでいらっしゃいますので、「ようやくおまえも、25歳で留学記を出した俺と並んだな」などと、褒めてはくださらないと思います。でも父の留学記は30万部も売れていませんので(笑)、その点だけはちょっと誇れるでしょうか。 彬子女王(あきこじょおう)/1981年、故寬仁親王の長女として誕生。学習院大学文学部史学科卒、英国・オックスフォード大学マートン・コレッジに留学。女性皇族初の博士号を取得して帰国した。立命館大学特別招聘准教授を経て、現在は京都産業大学日本文化研究所特別教授、京都市立芸術大学客員教授。2012年に「心游舎」を設立し、日本の伝統文化を子どもたちに伝える活動も続ける。 (文=神 素子、写真=篠塚ようこ)
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