名店のパティシエが教える。モデル・松川星さんが学ぶ正しいフランス菓子 vol.5|「クグロフ」
クグロフ発祥には多くの説が。いろいろな国の文化を感じるお菓子
フランスやオーストリア、ドイツなど、ヨーロッパのさまざまな国で作られているクグロフ。島田シェフは、その誕生にはさまざまな説があると話します。島田シェフ 「フランスのアルザス地方を発祥とする説では、アルザス内の街・リボーヴィレに有名な陶器職人が住んでおり、その職人が作った陶器の型でお菓子を焼いたのがクグロフのはじまりです。 また、オーストリアの首都・ウィーンを発祥とする説では、生地を発酵させず、バターケーキのような生地で作ったものがクグロフの原型とも言われ、マリー・アントワネットがオーストリアからフランスへお嫁に行くときに伝わったとされています。クグロフの語源は、アルザス語に由来している説、僧侶の帽子に由来する説などいくつかあります。クグロフと同じく生地を発酵させるシュトーレンはドイツ由来の菓子ですが、フランスでも作られています。国同士が地続きとなっており、戦争や人々が行き来するなかでフランスの文化ともドイツの文化とも言えるお菓子が生まれるのも、島国とは違ったこの地域の特徴です」松川さんは、チョコレートを日常的に食べ、週末はカフェでケーキを楽しむスイーツ好き。小さなクグロフを手に取ると、『可愛い! 』と思わず笑顔に。その感想は……? 松川さん 「外はサクッと、中はしっとりしていて、ひと口で2度美味しい! ぎゅっとつまった生地にシロップがたっぷり染みていて、甘さにやみつきになります。私は甘いもの好きなので、お砂糖がふんだんにかかっていたり、じゅわっとシロップの甘さが広がったり、とても嬉しかったです」
パティシエが作る繊細な生地。魅力も難しさも備えたお菓子
砂糖をまぶしたさっくり香ばしい表面の焼き加減も、バターとシロップが広がる柔らかく贅沢なブリオッシュ生地も、シンプルな見た目からどこまでも美味しさが続くクグロフ。パンとお菓子の良さをあわせ持ったクグロフには、普通のパンとは少し違った、パティシエが作る生地だからこその魅力が存在します。島田シェフ 「僕のクグロフは、シュトーレンのように澄ましバターとシロップにくぐらせ、しっとりとした食感を楽しむ『クグロフ アルザシアン』と、焼きっぱなしのふわっとした美味しさを楽しむ『クグロフ エアリー』の2種類を作っています。 パン生地には主に2種類の製法があり、製パン工場で多く使われる中種法(小麦粉の一部を先に発酵させた湯種を使う製法)と、パティスリーで用いられることが多いストレート法(最初にすべての材料を混ぜ、発酵させる製法)に分かれています。 ストレート法は中種法に比べて小麦の風味を感じられる生地を作れますが、劣化しやすく、味が落ちやすいのがデメリットです。加えて、ブリオッシュ生地は卵とバターをたっぷりと使っているため、食パンをはじめとする一般的なパンよりも固くなりやすいのが特徴です。同じストレート法の生地でもババやサヴァランはシロップをしっかりと染み込ませるのでパサツキを感じにくいですが、クグロフは焼きっぱなしのものも多く乾燥が目立ちやすくなります。そういった意味で、クグロフは難しいお菓子だとも言えますね。伝統的な型は陶器でできていますが、シリコンや金属製のものと比べて高価だったり、割れやすさや重量の点で扱いづらかったりといった理由から、日本では陶器以外の型で作っている店も多いです。型の素材にも金属だと模様がシャープに出る、シリコンだと柔らかみのある形になるといった個性があり、うちの店でも複数の型を使っています」