【病院の闇】生活保護者をムリヤリ入院させ、手術しまくる…医療界を震撼させた「山本病院事件」をご存じか
麻酔で目が覚めなかった
もうひとつ、病院内で事故が起こりやすいのが、クスリを投与する局面だ。前述した日本医療機能評価機構の調査では、事故に至る寸前のいわゆる「ヒヤリ・ハット事例」についても集計しているが、薬剤に関する事例は'22年の1年間でじつに32万件を超えている。 とくに事故が多発しているのが、点滴で規定を超える量のクスリを投与されるケースである。患者の多くは、どんなクスリがどれくらい投与されているかなど知る由もないが、それで命を落とす人は後を絶たない。前出の貞友氏が言う。 「死亡事故につながりやすいのが、麻酔薬の処方を間違えるミスです。'14年に東京女子医科大学病院で、手術後の男児が『禁忌』とされる鎮静剤『プロポフォール』を過剰投与されて亡くなった事件がありましたが、その他にも、てんかんの女性患者が保護者への説明もなくプロポフォールを大量に投与され、そのまま目覚めずに亡くなったケースがありました」 このような事故やミスで患者が命を落としても、それを理由として、医者が罰せられることは少ない。厚生労働省には、医師の不祥事を審査して処分を下す「医道審議会」という機関が設けられているものの、医業停止や医師免許取消といった処分を受けた医者は、医療ミスではなく、詐欺や猥褻行為など「医療以外」の不祥事を問題視されたケースがほとんどだ。
自分の身は自分で守る
「医道審議会の委員は医者が中心で、厚労省でこれを管轄する官僚も医系技官という医師免許を持つ幹部です。医者同士の同族意識と結束は非常に強く、自浄作用が働いているとは言い難い。 東大や京大、慶應といった有名大学医学部では、医局の出身者が事故を起こした場合、医局の教授や、その指示を受けた上司・同僚が徹底的にかばうことも珍しくありません。医療の世界は今も徒弟制度に近く、不祥事が明るみに出づらく罰せられづらい構造があるのです」(貞友氏) 患者が自らの身を守るために、何か対策法はないのだろうか。貞友氏は、「疑問を感じたら、かかりつけ医や主治医に逐一連絡することが重要」と語る。 「不要な手術や検査を押しつけられていないか、クスリの使い方がおかしくないかといったことは、患者にはなかなかわかりませんが、日ごろから診てくれている別の医者であれば気づきやすい。生検のように体を傷つける検査を勧められたり、医者が『すぐに手術したほうがいい』と言ってきかないときは、雰囲気に流されずに、かかりつけ医に必ず『この検査や手術は必要ですか』と聞くようにしてください」 どんな医者でも、患者が「イエス」と言わなければ無茶な治療はできない。気が動転しているときにこそ落ち着いて、目の前の医者が信頼できるか否か見極めたい。 「週刊現代」2024年6月1日号より
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