【社説】少数与党国会 「熟議」と呼ぶには程遠い
少数与党になった国会の風景は確かに変わった。先日閉会した臨時国会は、与野党が合意形成に試行錯誤する姿が見られた。 その真価は来年1月に召集される通常国会で問われることになる。「熟議の国会」にはまだ程遠い。 10月の衆院選で自民、公明の両与党の議席が過半数を割った。少数与党となったのは30年ぶりである。 「自民1強」だった2012年の第2次安倍晋三政権以降は、与党が数の力を振りかざし、国会論議を軽視する政権運営が続いた。 それが一転し、与党だけでは予算や法律を成立させることができなくなった。野党の賛同を得なくてはならない。 熟議に努めよとの民意である。国会を本来あるべき姿に戻す好機と捉えたい。 石破茂首相は臨時国会閉会後の記者会見で「与野党がかんかんがくがくの議論を行い、まさに熟議の国会にふさわしいものとなった」と述べた。自画自賛が過ぎる。 特に問題にしたいのは補正予算案の審議だ。 自民、公明は野党の中から予算案に賛成したことがある国民民主党に接近した。国民民主が公約した「年収103万円の壁」の引き上げを約束し、賛成を取り付けた。 日本維新の会に対しては、教育無償化の協議の場を設けることで賛成を引き出した。 成立した補正予算は、歳出総額が13兆9400億円に上る。石破首相が衆院選で「昨年を上回る規模」を約束したため、内容よりも規模優先で編成された。 緊急性に乏しい事業費も含まれているとの指摘は政府内からも漏れる。 疑問点の多い予算案にもかかわらず、国民民主や維新は内容をただし、修正を求めようとしなかった。 これでは重点政策を実現するために、補正予算案を取引材料に使ったことになる。来年夏の参院選を見据えた実績作りと非難されても仕方がない。与党にとっては思惑通りの結果ではないか。 一定の成果もあった。使途の公開義務がなかった政策活動費は廃止が決まった。国会議員に月額100万円支給される調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)については、ようやく使途公開と残金の国庫返納が決まった。 特別委員会では関連法案を提出した政党の議員が答弁に立ち、意見を交わした。政策活動費廃止の野党案を自民が丸のみしたのは、少数与党ならではの結果である。 石破首相は「他党の意見を丁寧に承り、可能な限り幅広い合意形成を図るよう努力した」と振り返った。 その首相の答弁は、謙虚な姿勢で質問者に理解を示しながらも、肝心な点ははぐらかす場面が目についた。 通常国会は25年度当初予算案をはじめ、重要法案が控える。かんかんがくがくの議論を次こそ見せてもらいたい。
西日本新聞