「浮島丸事件」がミステリー化した元凶、日本政府が「ない」と言い続けた乗船者の名簿が見つかった 79年後に開示された資料が語るもの
結局、朝連が解散させられたこともあり、補償交渉は立ち消えになった。その後も実現していない。 ▽過去の克服のために 同志社大の太田修教授(朝鮮近現代史)は、名簿を早急に韓国政府に渡すべきだと訴える。 「強制動員被害者の名簿類は、日韓両政府の取り決めで、これまで韓国政府に提供されてきた。日本政府は今からでも、今回見つかった乗船者の名簿を渡すべきだ」 日本から提供された強制動員被害者の名簿は、韓国政府が遺族に公開している。遺族は、名簿を閲覧することで、父や祖父が浮島丸に乗っていた事実を知ることができる。そして、韓国政府に被害申請を出すこともできる。 太田教授は続ける。 「『過去の克服』のためにはまず真相究明が必要で、名簿発見はその第一歩となり、大きな意義がある。真相究明が進めば、責任追及や謝罪、補償、そして歴史記憶の継承という段階に進める」 京都府舞鶴市で長年、犠牲者を追悼し、事件を調査してきた市民団体の関係者も、思いは同じだ。
「浮島丸殉難者を追悼する会」の品田茂会長(65)は、名簿発見を興奮気味に受け止めた。 「これまでほとんど資料がなかった浮島丸事件の資料があったことに驚いている。爆沈の事実関係は、まだまだ明らかになっていないことが多い。名簿や関連資料は、真相究明のために重要だ。すぐにでも全面公開してほしい」 韓国人遺族の中には、犠牲になったことがはっきりしているのに、死没者名簿の記載から漏れている人もいるという。 「乗船者名簿は、遺族らがずっと望んでいたもの。非常に関心が高い。来年は事件から80年になる。事実を明らかにするのが、問題解決の第一歩だ」 ▽遺骨 東京都目黒区の住宅地に、祐天寺という寺がある。ここに、浮島丸犠牲者の遺骨が今も安置されている。 祐天寺には、厚労省が預託した朝鮮人犠牲者2326人分の遺骨があった。少しずつ韓国に返還され、厚労省によると、今残っているのはちょうど700人分だ。
そのうち280人分が浮島丸犠牲者の遺骨。死没者名簿の本籍地から、275人が朝鮮半島の南側(現在の大韓民国)。残り5人が北側(現在の朝鮮民主主義人民共和国)の出身だという。 ただし、遺骨は一つにまとめられた後、人数分に分けられた分骨のため、引き取りをためらう遺族もいる。戦後79年の現実だ。