奥川雅也の追加招集見送り濃厚の緊急事態に森保Jはパナマ、メキシコ戦のテーマをクリアできるのか?
相手ゴール前の中央やや右寄りで半身になった体勢で、味方からのスルーパスをまずは利き足の左足でタッチする。ボールを前方へ巧みに流しながら、ペナルティーエリア内へ抜け出して右足を一閃。ドイツ代表の守護神も担うマヌエル・ノイアーの逆を突き、ゴール左隅へ正確無比に突き刺した一撃を、映像を介してチェックしていた日本代表の森保一監督も高く評価している。 「スペースがないなかでボールを受けて、スムーズにボールを前へ運んでいく。彼の特長でもあるプレーを強い相手にも出せているところで今回のリストにも入っていた中で追加で招集することになりました」 滋賀県甲賀市で生まれ育った奥川は、中学生年代から京都サンガのアカデミーに所属。スピードにあふれたトリッキーなドリブルを武器にするプレースタイルから、いつしか「古都のネイマール」と呼ばれた。本人も意識しているのか。ツイッターのユーザー名には<Neymar>が使われている。 2015シーズンからはトップチームに昇格するも、J2の舞台でわずか5試合に出場しただけで、同年6月にオファーを受けたザルツブルクへ完全移籍。もっとも、すぐにはトップチームでプレーできず、オーストリア2部のリーフェリング、同1部のマッテルスブルク、独ブンデスリーガ2部のホルシュタイン・キールへの期限付き移籍を繰り返して武者修行を積んだ。 期限付き移籍先で残してきた結果が評価され、ザルツブルクへの復帰を果たした昨シーズン。冬の移籍期間で南野拓実が名門リヴァプールに移籍した状況下でレギュラーをつかんだ奥川は、23試合に出場して9ゴールをマーク。ザルツブルクのリーグ戦7連覇に貢献した。 「得点という結果を出して、自分のことを認めてもらおうという意思というか、プレーから貪欲さというものが伝わってくる。さまざまな厳しい環境のなかでタフに戦っている、と感じている」
奥川が最後に年代別の日本代表でプレーした2014年のU-19代表のスタッフらを介して、ピッチ外での立ち居振る舞いなど、育成年代の情報も森保監督は収集していた。そして、何よりもヨーロッパの舞台で結果を求める戦いだけに終わらなかった奥川の姿勢に、深い感銘を受けたと明かす。 「フォワードとしてもプレーできるし、中盤の右でも左でもプレーしているのも見ているし、サイドバックも務めていた。彼の特長である攻撃の部分で得点に絡むところを貪欲に見せながらも、チームのためにどのポジションでもプレーする、という姿勢も映像を通して感じさせてもらっている」 追加招集ながら初めて手元へ呼び寄せる奥川への評価を森保監督が語っていたのは、日本時間9日午後6時から応じたオンライン取材だった。そのときはまだ公表されていなかったザルツブルクにおける緊急事態が、常連でもある大迫と堂安を欠いた状況をプラスに転じさせるチャンスを幻に変えた。 レフティーの奥川は右足も巧みに使え、ゆえに中盤でも右を主戦場にしながら、森保監督が言及したように左でも遜色なくプレーできる。カメルーン代表とスコアレスで引き分け、コートジボワール代表には1-0で勝利した10月のオランダ遠征では、流れのなかからはゴールを奪えなかった。 オランダ遠征では右サイドで堂安と伊東純也(ヘンク)が、トップ下で南野と鎌田大地(フランクフルト)が、そして左サイドでは原口元気(ハノーファー96)と久保建英(ビジャレアル)がそれぞれ先発した。メンバーを固定して戦う傾向が強い森保監督が描く序列に楔を打ち込み、チーム内の競争意識を煽り、戦い方の幅を広げる絶好のチャンスが、奥川を襲ったアクシデントとともに失われた。 何よりもJリーグである程度の実績を積み、ヨーロッパに挑んだ選手がほとんどを占めるなかで、ほぼ裸一貫で飛び込んだ奥川が刻んできた軌跡は稀有となる。期限付き移籍を繰り返しながら、絶対にはい上がってみせるとたぎらせ続けたハングリー魂は、日本代表に新たな風を吹き込んだはずだ。