なぜガンバ大阪の”レジェンド”宮本恒靖監督は電撃解任されたのか?
2014年にはJリーグの特任理事に就任。さらに同年6月からブラジルで開催されたワールドカップでは、FIFAが指名した10人のテクニカルスタディーグループの一人として大会全般における技術や戦術、傾向などを分析してリポートを作成した。 Jリーグだけでなく日本サッカー協会(JFA)からもオファーを受けていたなかで、2015年に宮本氏が選んだ次なる道は第一期生として入団したユースを含めて、15年間所属してきた愛着深い古巣ガンバへの復帰であり、指導者への挑戦だった。 しかもトップチームではなく、まずアカデミーのスタッフに就任。ジュニアユースのコーチとして中学生年代の子どもたちを指導し、翌2016年には高校年代のユースの、2017年にはガンバがJ3に参戦させていたU-23チームの監督をそれぞれ務めた。 「自分の経験という強みを、あのタイミングで生かせるものは何かと考えました。選手をやめて間もないなかで、伝えられることがたくさんあると思ったので」 こう語っていた宮本氏は着実にステップを踏みながら、いずれはトップチームを指揮する青写真を描いていた。しかし、2018年7月に青天の霹靂にも映る転機が訪れる。トップチームを率いていたレヴィー・クルピ監督(現セレッソ監督)が成績不振を理由に解任され、ガンバのサッカーを取り戻してほしいと後任を託されたからだ。 そして、残留争いを強いられていた古巣を立て直す決意を固め、オファーを受諾したときから、同時に別離へのカウントダウンも始まっていた。例えば解任されたザーゴ監督に代わり、今年4月にコーチから鹿島アントラーズの監督に昇格した相馬直樹氏は、監督だけが常に直面する宿命をかみしめるように、古巣・鹿島との関係をこう表現していた。 「他のクラブで監督は何度かやっていますけど、終わりが来る仕事だと思っています」 確固たる結果を残せなければ、いつかは必ず責任を問われる立場となる。相馬監督が明かした偽らざる思いは、ホームのパナソニックスタジアム吹田に浦和レッズを迎える16日の次節へ向けて14日から暫定的にトップチームの指揮を執り始めた、松波正信強化アカデミー部長にバトンを託した宮本前監督にも共通していたはずだ。 2018シーズンは最終的に9位にまでガンバを浮上させ、2019シーズンの7位をへて昨シーズンの2位へ繋げた。それでも戦力を充実させて臨んだ今シーズンの現状は、たとえクラブのレジェンドであっても許されるものではないと非情な判断を下され、宮本氏もプロとして不振に陥った責任を一身に負う形で受け入れた。 思わぬ形からスタートさせたトップチームの監督としての挑戦は、道半ばで幕を閉じた。それでも、まだ44歳と若い宮本氏には、挫折を糧にしながら指導者としての”再登板”への英気を養っていく時間は十分にある。JFAやJリーグも一度はラブコールを送った稀有なキャリアの持ち主だけに、さまざまな舞台での再挑戦が待っているはずだ。 (文責・藤江直人/スポーツライター)