2025年、巳年の市場を待つのは大パニックか?トランプ再選の影響と「世界恐慌」との類似点
プライベートファンドは「震源地」となるか
今の株式市場は、2008年のリーマンショックから見ると15年以上も続く上昇相場だ。新型コロナで調整するかと見られたが、その対策としての異次元緩和で市場に大量にマネーが送り込まれたことにより、株や仮想通貨、それにSPACなどのリスク資産が高騰した(関連記事:ソフトバンクも手を出した「SPAC」上場、いまアメリカで大流行する「危ない仕組み」)。1億円を超えるタワマンの高騰も、金あまりの一現象だろう。 IMFのレポートによると、世界の負債は2023年時点で、世界のGDPの2.37倍。民間債務はGDPの1.43倍。パンデミック以降少し減っているものの、リーマンショック時を超える高水準だ。 そして、特に投資が膨らんでいるのが、ソフトバンクグループ(SBG)の「ビジョンファンド」のような未上場企業に投資するプライベートファンドだ(関連記事:ソフトバンク、トヨタ、武田…高まる企業の「ベンチャー投資」リスク)。 孫正義SBG会長兼社長がトランプ次期大統領との会談で1000億ドル投資を約束して話題になったが、マッキンゼーなど調査会社の推定では、プライベートエクイティーやプライベートデット(非上場企業の債券に投資)などのプライベートファンドの預かり資産総額は約13兆ドル、日本円で約2000兆円と膨らんでいる。世界株式市場の時価総額74兆ドルとの比較でも、かなりの存在感だ。 プライベートファンドには、富裕層だけでなく、公的年金なども投資しているし、今ではプライベートファンドに連動するETFを買って一般個人が間接的に投資することもできるようになっている。 過去の金融危機では、規制の行き届かない新手の金融商品が震源地となる事例が多いから、注意が必要だろう。
イーロン・マスク氏の利益相反懸念
さて、今回のトランプ人事で大変注目されるのが、イーロン・マスク氏の政府効率化省トップへの就任だ。ちなみに政府効率化省の頭文字はDOGE (Department Of Government Efficiency) だが、マスク氏が推奨した仮想通貨DOGE(ドージコイン) をもじったものに違いない(関連記事:「仮想通貨」がイーロン・マスクのジョーク一つで乱高下…「ソーシャルメディア投資」の功罪)。 マスク氏のような大富豪財界人が政府要職につくケースは、目新しいものではない。例えば100年前の米財務長官だったアンドリュー・メロンは銀行家の息子として生まれ、石油、鉄鋼、造船、建設などの事業を展開する財閥を作り上げて、ロックフェラーやヘンリー・フォードと並ぶ全米3強の大富豪となった。1921年から32年まで10年以上にわたって財務長官を務めている。 面白いのは、メロン財務長官とマスク氏の掲げる政策との共通点だ。メロンは公共事業を投資ファンド形式にするなどの斬新なアイディアで政府支出を削減し、財政を黒字に転換させ、その余剰資金で減税を行った。マスク氏も公務員削減や規制緩和、無駄使いの圧縮で、年間5000億ドル(約78兆円)以上節約できると発言しているが、それはトランプ減税の原資となるのだろう。 どちらもリバタリアン(自由経済至上主義)の考え方だが、100年前はもともと政府公務員の数も少なく、社会保障も存在しない「小さな政府」だったので、メロン財務長官の政府支出削減が直接国民福祉に影響することはなかった。でも、今は違う。 「狂騒の20年代(Rolling 20s)」と呼ばれた繁栄の時代には名財務長官として評価の高かったアンドリュー・メロンだったが、世界恐慌が発生すると、世論の猛烈な批判を浴びた。メロン財閥の関連企業が受注する公共事業に財務長官として予算を割いていたことなど、利益相反が野党議員から厳しく追求され、辞任に追い込まれた。起訴には至らなかったが、脱税で告訴もされた。 マスク氏の宇宙企業スペースXは、何十億円という額の軍事用衛星監視システムを米情報機関や米宇宙軍から受注していると報じられる。テスラも米政府の電気自動車向けの税控除を享受している。 DOGEは外部アドバイザリー委員会なので、マスク氏は連邦職員としての倫理規定の適用を受けない。早速、民主党議員からは利益相反リスクを指摘する声が上がっている。 * * * 1929年のウォール街のパニックも、瞬く間に全世界に波及した。グローバルな市場では、どこにいても影響を免れない。聖書に出てくる蛇は、誘惑や危険の象徴でもある。巳年の市場は、リスクに十分注意を払う必要がありそうだ。
小出 フィッシャー 美奈(経済ジャーナリスト)