5度のがんを経験した元IT社長が語る、“病後”の生活と生き方
100%健康な体なんてあり得ない
今でこそ「無理せず、焦らず。病気になる前の体を目指さなくてもいい」なんて言っている私ですが、以前は100%の健康を目指している人間でした。 私は父と姉と妹をがんで亡くしています。家族のがん闘病を見てきた影響なのか、私は少しでも健康上の問題があるとすぐに対処しないと気がすみませんでした。 健康診断で「尿酸値が基準値よりもやや高いですね」と言われたときは、毎日飲んでいたビールをきっぱりやめ、1か月後、必要もないのに病院に行って尿酸値の検査だけをしてもらい、基準値内に戻したことをわざわざ確認して安心しました。 あるいは、1回目のがんである脳腫瘍の手術からしばらくしたころ、腕の皮膚にしこりができて近所の皮膚科に行きました。 医師からは「これは皮膚繊維腫というもので、良性なので放っておいて大丈夫ですよ」と言われたのですが、いずれ悪性化するのではないかとどうしても気になって、日帰り手術で切除してもらいました。 このように、自分の体に健康上の問題があることがとにかく許せなかったのです。 でも、ご存じの方も多いかもしれませんが、健康な人の体でも毎日数千個ものがん細胞が生まれていて、それを免疫細胞がやっつけています。 がん細胞が生まれる速さを、免疫細胞がそれらを排除する速さが上まわれば、腫瘍を形成していくことはありません。 それが、何らかの原因で免疫力が下がると、がん細胞を退治するペースが遅くなり、徐々に腫瘍になっていくわけです。 そう考えると、100%健康な体なんてこの世にないのです。健康な人の体にも、不健康な部分(がん細胞)があるのですから。 だから、100%元の自分に戻す必要もないのではないでしょうか。 昔の、100%健康な体を目指していた自分にも、そんなふうに言ってあげたいです。