「タイホラー映画」本国ではハリウッド映画超えの人気。朝の情報番組で“心霊コーナー”、オカルト大国の素顔に迫る
タイ人の「当たり前」が練り込まれたホラー映画
このようにタイ人とオカルトの距離感に興味を持った私は、不思議な縁もあって2年前に『タイぐるり怪談紀行』(アプレミディ)という本を書くにいたったのだが、偶然韓国との合作である『女神の継承』も日本で上映されることとなった。それを皮切りに少しずつ日本での注目が高まったタイホラー映画だが、嬉しい気持ちの反面、同時に不思議な気持ちも起こった。 それは、タイホラー映画やタイのオカルトがなぜ日本人の中でもてはやされはじめたのか、という疑問である。 この答えも、結局は先ほど述べたことに帰結するのかもしれない。日本のホラー映画も結局はエンターテイメントの域を出るものではなく、映画を見た後にその内容が私生活と共鳴するまでには至らない。そこには、日常と非日常のはっきりとした隔絶が存在している。 だが、タイホラーはどうだろう。その映画に関わる監督・俳優・スタッフすべてがオカルトを日常として捉えているタイ人なのだ。そんな彼らが手がけた作品には、この世に「当たり前」に存在している目にみえないものへの畏怖の念が自然と練りこまれている。 そのタイ人にとって当たり前の存在も、昔は日本でも当たり前に語りつがれてきたものだ。 クマントーンという子どもの霊が入った呪物を家に迎え入れるとその家が栄えるという言い伝えは、現在もタイ人に信じられている。日本でもクマントーンと似た「座敷童子」という妖怪がいるが、その存在を当たり前としなくなった社会では、彼らも姿を見せにくくなったのかもしれない。 タイホラーに惹かれる日本人たち。その理由に対する明確な答えは出せない。 しかし、私はこう思うのだ。心の奥深くに眠る、昔は日本でも“当たり前”だったあの感覚が、タイホラーという触媒によって蠢きだしたからではないだろうか。
バンナー星人