【本日「情熱大陸」出演】世界一眠らない国の世界的睡眠研究者が発見した覚醒のカギ「オレキシン」とは
今年もノーベル賞の発表が続いている。生理学・医学賞で受賞が期待された、睡眠研究の世界的権威で国際統合睡眠医科学研究機構の機構長を務める柳沢正史教授は惜しくも賞を逃したが、柳沢教授は、ノーベル賞の登竜門とも言われる生命科学ブレイクスルー賞、クラリベイト引用栄誉賞をいずれも受賞済みだ。来年以降に期待して、改めて、柳沢教授の研究の何が注目に値するのか、誰にでもわかるように解説しておきたい。 柳沢教授監修の『今さら聞けない 睡眠の超基本』には、以下のような記述がある。 ダイエットのために夕食を軽く済ませようとして、眠れなくなってしまった経験がある人もいるでしょう。おなかが空くと血糖値が低下し、神経細胞が刺激されて覚醒物質オレキシンが生成されます。人間も動物である以上、おなかが空いたら食材の調達に出なければならないため、身体は目覚める方向に働いてしまうのです。 この覚醒物質「オレキシン」の発見こそ、柳沢教授の研究チームの大きな功績だ。『今さら聞けない 睡眠の超基本』を引用しつつ、さらに解説したい。 +++ 1998年、当時アメリカのテキサス大学に在籍していた柳沢教授の研究チームが発見した脳内物質「オレキシン」。当初は食欲に関連した物質と考えられていましたが、その後、オレキシンを生成できないマウスは突然眠ってしまうことがわかりました。人間に起きる睡眠障害の一種「ナルコレプシー」と同様の症状です。 ナルコレプシーの主な症状は、日中の過剰な眠気、突然眠ってしまう睡眠発作、感情が昂ると筋肉が弛緩(しかん)する情動脱力発作、金縛り(睡眠まひ)、入眠時の幻覚、頻繁な夜間の中途覚醒などです。日本では600~2000人に1人、一般的に10代から30歳の間に発症し、患者の男女比はほぼ同じです。
オレキシンを生成できないマウスがナルコレプシー同様の症状を示したことで、オレキシンが睡眠に関連する物質で、視床下部に存在するオレキシン神経細胞からオレキシンが放出されると覚醒が促されることが判明しました。この発見を応用し、オレキシンの結合をブロックする新しい種類の睡眠薬「オレキシン受容体拮抗(きっこう)薬」が2014 年に実用化されました。副作用が極めて少なく、より自然な睡眠を誘導できるとされています。 反対に、オレキシンを活性化させる薬ができれば、覚醒状態に誘導でき、ナルコレプシーの治療にも役立つとして、今も開発が続けられています。 冒頭に挙げた「おなかが空いて眠れない」ということを避けるには、就寝の4時間前までに適切な量を食べること。糖質や脂質が多いと、入眠に時間がかかる傾向があります。一方で、食物繊維を多く摂ると寝つきがよくなるという報告もあります。また、よくかむと健康によいので、夕食は野菜を多めにし、よくかんで食べましょう。 ちなみに、オレキシンはギリシャ語で「食欲」を意味する「orexis」が語源。食欲に関わる物質だと提唱されていたことの名残です。 (構成 生活・文化編集部 上原千穂)