「妻が塩サバを洗浄して気付いた」…東大開発の超音波洗浄機、肉や魚も洗うと「おいしくなった」
洗うだけで食材の味わいが増す超音波洗浄機を、千葉県柏市の東京大大学院新領域創成科学研究科の尾田正二准教授(57)らのグループが開発した。洗浄力が増し、食材の日持ちも良くなるという。尾田准教授は「食の安全をより深化できる。コストを下げ、いずれは家庭用にしたい」と意気込んでいる。(木村透) 【写真】妻の嫌な態度1位は「わけも分からずイライラ」…市のチラシ炎上
超音波洗浄は、水を入れた容器を高速振動させることで水中に超音波を発生させ、それによって生じた微細な泡が破裂する際の衝撃波で汚れを落とす仕組みだ。手術用のメスやピンセットなど硬い物を洗うのに向いており、眼鏡の洗浄機などに使われている。ただ、肉や魚などの軟らかい食材に使うと細胞が壊れるため、不向きとされてきた。尾田准教授によると、家庭向けの食材洗浄機もあるが、すすぎが必要だったり、超音波の強さが食材に合っていなかったりするものが多いという。
尾田准教授は、洗浄中にも水を流し、超音波の強度を最適化することでこれらの課題をクリア。6件の関連特許を取得した。
新開発の超音波洗浄機を使うと、泥汚れや雑菌、残留農薬、添加剤などをきれいに落とせるほか、ホウレンソウや小松菜などの野菜がみずみずしくなるなどの効果があった。葉から水分を蒸発させる「気孔」が超音波処理によって閉じ、水分が蒸発しにくくなったためで、冷蔵庫内での日持ちもよくなったという。
時間がたって味や匂いが悪くなった肉や魚も、洗う前よりおいしくなった。味わいが落ちる原因は、肉や魚の表面の脂質が時間と共に過酸化脂質に変化することだが、超音波洗浄によって過酸化脂質が除去され、水に溶け出していることが確認された。尾田准教授は「妻が塩サバを洗浄して新機能に気付いた。おいしさは数値で示せないが、試食した人ほぼ全員がそう言ってくれた」と自信を見せる。
尾田准教授の専門は、放射線が生物に与える影響を調べる放射線生物学。2011年の東日本大震災後、柏市周辺は放射線量の高い「ホットスポット」とされ、農作物の風評被害に苦しんだ農家も多かった。関係者から「放射能を超音波で落とせないか」と試作品を持ち込まれたことをきっかけに、住宅関連会社と共同研究を進めてきた。
尾田准教授は「この技術で食の安全・安心をより深化させたい。健康はまず食からで、保育園の給食、病院食への導入から始め、いずれは家庭のシステムキッチンに組み込みたい」と話している。