弾劾決議案「不成立」、首の皮一枚で残った韓国・尹錫悦大統領、推し進めてきた日韓関係改善はどうなる
■ 日韓関係は大きく停滞、北朝鮮をめぐる日米韓協力も後退か 今回の一件は、日本にも大きな影響を及ぼすものと見られる。 文在寅政権退陣後の日韓関係の進展は、尹大統領の指導力によるところが大きい。韓国国内で様々な抵抗がある中で、断固としてこれを進めてきた。韓国では尹大統領の譲歩に見合うような歩み寄りを日本側が見せていないとする声も多い。そのため元徴用工、元慰安婦問題など関係団体が問題を蒸し返してくる可能性は大きい。 「日韓関係改善は尹大統領が強引に進めたものであり、これをもう一度見直す必要がある」との声が高まるかもしれない。また、共に民主党の李在明代表は確信的な反日である。今回の件を機に、再び勢いを取り戻した李在明氏のリーダーシップの影響は小さくない。そうなると、日本としては難しい対応を迫られる可能性が出てくる。 その一方で、韓国国内では元徴用工や慰安婦に関連する集会への一般市民の参加は減っているという。関係団体が「集める」としていた人数をはるかに下回っているようだ。おそらく団体関係者中心の集会となっているためだろう。 昨年日本を訪れ韓国人は約700万人。今年は1000万人にも達すると見られている。韓国の人口は5170万人である。何度も訪日する人がいるとはいえ、訪日する割合は極めて高い。そして訪日した韓国人はもともと日本に親近感を抱いていたり、日本を訪れてさらに日本に親しみを感じたりしてくれることが多い。こうした日本ファンの増加が、元徴用工や慰安婦に対する関心を低下させている大きな要因にもなっているのではないだろうか。 他方、2025年は日韓国交正常化60周年で様々な行事が予定されるはずだった。しかし、これを推進した尹大統領がいなくなれば、お祭り的なことがどれだけ行われるか疑問である。日韓関係改善を推進してきた尹大統領の「パワーダウン」がどう影響してくるのか、注視する必要がある。 日米韓協力においても不安要素が大きくなった。共に民主党は親・北朝鮮なので、彼らが勢いを増すことで日米韓協力を制限することになりかねない。加えて米国では1月にトランプ政権が発足する。トランプ氏は再度、金正恩氏と会談することも視野に入れている節があり、金正恩氏の口車に乗りかねない。そこでトランプ氏から韓国側に対北施策で何かしらの譲歩を迫るような要請がなされた場合、尹大統領の強いリーダーシップがなければそれをはねのけることはできないだろう。 ロ朝協力に前のめりになっている金正恩氏に対して、日米韓はうまく協力して対応していかなければならない。3カ国の間の足並みの乱れは、日本の安全保障にとっての危機になる。この状況での大きく揺らいだ韓国政治の行方に、日本はしっかりと注意を払っていくべきなのだ。
武藤 正敏