虫刺され薬「ムヒ」は語源もシェアも無比 富山から全国ブランドになった100年 池田模範堂「ムヒ」(上)
虫刺され薬「ムヒS」は有名だが、製造・販売している企業を知っているだろうか。名前は「池田模範堂」。富山県上市町に本社を構える。いささか古風な雰囲気の社名が示す通り、1909年の創業で115年の歴史がある。「天下無比、唯一無比な薬を目指す」という思いから名付けられた「ムヒ」シリーズは2026年に発売から100年を迎える。日本人のかゆみを抑え続けてきた1世紀をたどる。 夏が近づくと毎年、ドラッグストアの売り場構成が変わる。入り口に最も近い棚には虫刺され・かゆみ止めのコーナーがお目見えするのは一種の風物詩だ。多くの売り場で最も目立つ棚に置かれるのは、池田模範堂の「ムヒ」シリーズ。クリーム状の塗り薬「ムヒS」は不動のロングセラーで、赤、白、青のパッケージでもおなじみだ。 もともと富山は配置薬ビジネスで知られる。今ではかなり減ったが、昔は家庭にも置き薬の箱があった。現在のサブスクリプションの原型のようなビジネスモデルだ。創業者の池田嘉市郎も1909年、家庭配置薬の販売からスタート。初代社長の池田嘉吉が1914年に商号を創業者一族の姓から「池田模範堂」と定めた。「模範堂」には「社会の模範となる会社になろう」という意味が込められている。 今に至る看板ブランド「ムヒ」の製造が始まったのは、大正から昭和に切り替わった1926年。当初は缶入りのワセリン軟膏(なんこう)だった。翌1927年にはチューブ入りを発売。1931年に売り出した白いクリーム状の「ムヒ」は爆発的なヒットとなった。「当時は虫刺されの効能をもった市販薬がこの分野では見当たらないような状況だった」と、取締役の小嶋善彦研究所長は伝え聞く事情を明かす。 「ムヒ(=無比)」というネーミングは「比べるものがないほど優れた効き目」にちなんでいる。かつての一般的なかゆみ止めはメントール系のスーッとする清涼感を押し出す一方、かゆみを抑える成分に乏しいタイプが珍しくなかった。「ムヒ」は早くから効き目の確かな成分で支持を得て、このカテゴリーで文字通り「無比」の存在になった。 使い勝手や塗り心地も支持を広げた理由だ。「タイガーバーム」に代表されるガラス瓶入りは半固形で、伸びがよくなかった。「ムヒ」はクリーム状で肌になじみやすく、サラッとしてべたつかない。「改良を重ねて使用感を高めていった」(小嶋氏)という歩みは家庭の常備薬に「ムヒ」を押し上げた一因だろう。 赤白青の3色で見慣れた「ムヒS」だが、最初のパッケージは「緑だった」(小嶋氏)。赤と白が基調カラーに選ばれたのは、1964年の東京五輪あたりから。健やかさやさわやかさが国民の印象に残った日本選手団のユニホームにも通じる配色だ。