虫刺され薬「ムヒ」は語源もシェアも無比 富山から全国ブランドになった100年 池田模範堂「ムヒ」(上)
ザ・ドリフターズやコント55号で知名度アップ
日本では明治時代以降も虫刺されの際に、今のような「すぐに薬を塗る」という習慣が根付かなかった。かゆくなったらポリポリかくか我慢するかでやりすごす人が大半だったようだ。明治の文豪、夏目漱石の小説にも蚊帳が出てくる。「ムヒ」はそうした悩みにしっかり薬効で応えた点で画期的といえる。 ただ、新発想の製品だけに、発売当初から宣伝には力を入れてきた歴史がある。「古くはホーロー看板も活用した。虫に刺されやすい海水浴客向けにも訴求した」(小嶋氏)。そうした進取の気性に富むアイデアは池田模範堂の社風ともなっているようだ。使用期限を明記しないのが普通だった配置薬に、初めて日付を書き込んだ3代目社長は同業他社からにらまれたという逸話も残っている。 知名度を高めるにあたって大きな効果を発揮したのは、1963年から始めたテレビCMだった。ザ・ドリフターズ、コント55号などのタレントを起用。製品の「おまけ」にもキャラクターを用いた。 最も一般的な「ムヒS」以外にクリーム剤で「ムヒアルファSII」と「ムヒアルファEX」がある。「ムヒS」との大きな違いは「ステロイドを配合している点」(小嶋氏)。虫刺されへの効き目が強く、効果も長続きする。「ムヒS」にはステロイドは配合していない。 効能欄を見ると、「ムヒS」は「かゆみ、虫さされ、かぶれ、しっしん、じんましん、あせも、しもやけ、皮ふ炎、ただれ」と列挙されている。一方、「ムヒアルファSII」と「ムヒアルファEX」は冒頭が「虫さされ、かゆみ」の順。強みを持つ「虫さされ」が一般的な「かゆみ」よりも先に置かれている。 「ムヒアルファSII」は「こんな虫さされなどにお使いください」と、イエ蚊、ヤブ蚊、ダニを列挙。効き方のすばやさにこだわった「瞬間処方」が売り物だ。かゆみ止め成分のジフェンヒドラミン塩酸塩を自社従来品比2倍に増量している。 一方、「ムヒアルファEX」はダニ、ノミ、毛虫、ムカデ、クラゲを挙げた。「がまんできない虫さされ・かゆみ」への効果をうたう。近年は世界各地のホテルでトコジラミ(南京虫)の被害が報告されている。強いかゆみを引き起こすケースでの効果が見込める「ムヒアルファEX」を持参すれば旅先でも役立ちそうだ。 蚊と違って、ダニのようなケースでは、「かゆみがぶり返しやすい」(小嶋氏)。ステロイドを配合することによって、即時型反応への効き目と遅延型反応への効き目を兼ね備えた。一般的な蚊であれば、「ムヒS」でも十分に効き目が見込めるが、刺した生き物の種類に応じて使い分けるのが賢い「ムヒ」術といえそうだ。